コンテンツにスキップ

黒部峡谷鉄道ハ形客車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
黒部峡谷鉄道ハ形客車
Kurobe Gorge Railway DD 22 diesel locomotive.jpg
ハフ4(猫又駅にて)
基本情報
運用者 黒部峡谷鉄道株式会社
製造年 1923年 -
総数 37両(1990年当時)
21両(2023年現在。更新形およびK形を含む。ハト形を除く)
主要諸元
編成 1両
軌間 762 mm
車両定員 18名
自重 2.3 t
全長 4,226 mm
全幅 1,660 mm
全高 2,180 mm
備考 未更新・未改造車の主要諸元。一部車両は仕様が異なる。
出典:旅客車の紹介/黒部峡谷トロッコ電車(公式サイト)、黒部峡谷トロッコ電車のご紹介(機関車・客車編)、『鉄道ピクトリアル』通巻532号、pp.48-49
テンプレートを表示

黒部峡谷鉄道ハ形客車(くろべきょうこくてつどうハがたきゃくしゃ)は、1923年大正12年)に登場した[1][2][3]黒部峡谷鉄道の普通客車[4][5]

本形式は大別すると「C形」「K形」と呼ばれる2種類の仕様があるが、本稿では基本的な仕様であるC形について主に記述し、K形について記述する際はその旨を明示する(C形とK形については#解説を参照)。また、ハ形から改造して誕生した黒部峡谷鉄道ハト形貨車についても記述する(#転用車両を参照)。

概説

[編集]

民営鉄道が保有する旅客車中「現役長寿」「全長最少」「最軽量」「最少定員」の4部門で日本一の車両で、一部の車両は古くからの形態のままで運用されている[1][3]

黒部峡谷鉄道では唯一の2軸客車である[4][3]ボギー車1000形は1両あたりの定員が27名[1]なのに対して本形式は18名と比較的小型である[3][4][5]

無蓋車屋根を付けたような風貌である[3]ことから、同様の形状を持つ1000形客車とともに「開放形」や「オープン形」などと呼ばれる[5][6]

1000形を「B形」、2000形を「A形」などと呼ぶのに対して本形式は「C形」と呼ばれている[5]

ただし、本形式のうち車番が50番台の車両は仕様など様々な面で他のハ形とは大きく異なる。これらの車両は関西電力の貸切専用車両[5][7]で、「K形」と呼ばれる[5]。C形が「開放形」なのに対して、K形は「密閉形」となっている[5][7]。また、座席配置の関係から定員は16名であり、C形よりも2名少ない[5]

歴史

[編集]

黒部峡谷鉄道は1923年から発電所建設の資材輸送のため軌道の敷設を開始した[8]。その際に貨車として登場した車両が本形式である。当鉄道は資材輸送のための鉄道であったが、当時から「無料便乗」という形で地元の人々が乗車しており、次第に登山客なども乗車するようになっていた[8]。しかし、1953年昭和28年)11月まで地方鉄道業法の適用は受けておらず、正式な旅客営業は行っていなかった[8]。その後も増大する観光需要に対応するため、地方鉄道業法の許可を得ることになり、1953年11月5日に関西電力がこれを取得して正式な営業運転が開始された[8]

長らく主力客車として観光客の輸送で活躍した[5]ものの、次第に観光客の輸送からは外れて混合列車などで運用されるようになった。1990年頃にはシーズン中の7-8月および10月にのみ一般の列車で運用され、それ以外は混合列車で運用されていた[4]。なお、一般の列車で使用する際は10両編成で編成定員236名として運用していた[4]。そして、1994年頃を最後に基本的には観光客の輸送から外れた[注釈 1]

その後は関西電力職員や作業員の輸送等を中心に運用されるようになり[5][3]2023年現在に至る。

構造

[編集]

車体

[編集]

無蓋車に屋根を取り付けたような形状の車体である[3]

材質は台枠、骨格、屋根が金属製、側面と妻面が木製となっているのが基本だが、一部の車両では鋼体化が行われている[5][3]

一方でK形は「密閉形」となっており[5][7]、側面と妻面にアルミサッシが取り付けられ、窓ガラスが取り付けられている[5]。車体は鋼製になっている[5]

内装

[編集]

座席は3人掛けの座席が枕木方向に6列並んでいる[5]

一方でK形の座席配置はC形と全く異なり、ロングシートとなっている[5]

走り装置

[編集]

走り装置は単台車(二軸車)である[7]

連結器

[編集]

連結器は黒部峡谷鉄道で採用されているピン・リンク式連結器を装備している[7]

形式

[編集]

「ハ形」とまとめられる車両のうち、特定の仕様を持つ車両には「ハ」の後ろにもう一文字を追加して形式を示している。

ハフ

[編集]

尾灯車掌弁、圧力計などを設置し、緩急車として運用できる仕様とした車両[5]

2022年現在、現役のC形は全てこの仕様になっている[7]

ハト

[編集]

#転用車両を参照)

運用

[編集]

本節では2020年代初頭現在の運用について記述する。過去の運用については#歴史を参照。

1000形などの他形式は基本的に固定編成を採用しているのに対して、本形式は一定の編成を組むことはせず、1両ずつ単独で運用がなされている[4]

車両の扱いは普通運賃のみで乗車できる普通車であるが、一般の列車はボギー車で統一されているため、イベントや一部のツアー列車[注釈 2]を除いて一般客は乗車できない[4][5][3]。おもに混合列車や工事列車に貨車とともに連結され、関西電力職員や作業員の輸送などで活躍している[5][3]。また、これらの列車の緩急車として運用することもあり、ハフ形1両に車掌が乗務して列車の最後部に連結される[10]

現役車両

[編集]

現役車両(2022年現在)は以下の通り。C形、K形合わせて21両が現役で運用されている[1][7][2]

  • C形(計17両)
    • ハフ3 - 8, 11, 13, 15-21, 31, 32[7]
  • K形(計4両)

現役車両各車の仕様のうち、標準的な仕様ではないものなど、特筆すべき仕様は以下の表の通り。

普通車(C形)各車の特筆すべき仕様
形式 車番 主な仕様 備考
車体材質 全長、全高
ハフ 3 木製(2010年8月)[5]
ハフ 4
ハフ 5
ハフ 6
ハフ 7
ハフ 8
ハフ 11
ハフ 13
ハフ 15
ハフ 16
ハフ 17
ハフ 18 木製(2012年4月)[5]
ハフ 19
ハフ 20
ハフ 21
ハフ 31 鋼製(2012年5月)[5]
ハフ 32
関西電力専用車(K形)各車の特筆すべき仕様
形式 車番 主な仕様 備考
車体材質
51 鋼製[5]
52 鋼製[5]
53 鋼製[5]
54 鋼製[5]

転用車両

[編集]

黒部峡谷鉄道ハト形貨車(貨車への改造)

[編集]
黒部峡谷鉄道ハト形貨車
基本情報
運用者 黒部峡谷鉄道株式会社
種車 黒部峡谷鉄道ハ形客車
改造年 2016年
改造数 1両
総数 1両(2022年現在)
主要諸元
編成 1両
軌間 762 mm
荷重 3.2 t
自重 2.3 t
全長 4,532 mm
備考 出典:私鉄車両編成表2022 p.117, 新しい貨物列車の世界 p.139
テンプレートを表示

黒部峡谷鉄ハト形貨車(くろべきょうこくてつどうハトがたかしゃ)は、2016年(平成28年)に登場した黒部峡谷鉄道の貨車(屋根付き無蓋車)[7]

ハト9の1両のみ存在する[7][11]。黒部峡谷鉄道ハ形客車のハフ9を改造・転用した車両[5][7][11]。改造日は2016年5月1日となっている[7]。主に混合列車に連結され、作業員の手荷物運搬車として運用されている[7]

2012年頃には本形式と同様に座席を撤去した黒部峡谷鉄道ハ形客車が存在し、貨車代用として運用されていたが、「ハト」への形式変更はされなかった[5]

ハト形貨車 特筆すべき仕様
形式 車番 主な仕様 備考
車体材質 内装
ハト 9 ハフ9から改造・転用[5][7][11]

保存車両

[編集]

ハフ10

[編集]
ED11とともに展示されているハフ10
ED8とともに展示されているハフ26・ハフ27

宇奈月駅から徒歩1分のトロッコ広場にてED11とともに展示されている[1]

ハフ26・ハフ27

[編集]

北陸新幹線黒部宇奈月温泉駅と、隣接する富山地方鉄道本線新黒部駅付近に「トロッコ電車のオブジェ」としてED8とともに展示されている[12][13][14]。これらの車両展示は両駅開業時に「新幹線駅前オブジェ整備」として黒部市が設置したもの[15]で、当駅開業前は黒部市が所有するキャンプ施設『どやまらんど明日』のテントサイト付近に保存されていた[16]

ハ29

[編集]

黒部市宇奈月町下立のふるさと水環境公園(下立農村公園)にED13とともに展示されている[14][17]

1992年に廃車となり、1993年宇奈月町(現在の黒部市)へ譲渡され、同公園に展示された[17]。露天での展示のため徐々に車体へ傷みが発生していたが、2021年に黒部峡谷鉄道が「創立50周年記念事業」として修復を行った[17][18]。側板の交換、再塗装が行われ、ED13と共に補修された[17]

ハ36・ハ37

[編集]

黒部市宇奈月町浦山にある大橋農村公園にBB5とともに展示されている[14]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 黒部宇奈月温泉駅前に展示されているハ36、ハ37の案内看板にこの旨の記述がある。(2023年6月)
  2. ^ 具体例としては「昭和46年にタイムスリップ!凸型機関車運行の旅」と題して運転された、創立40周年を記念したイベント列車があげられる。本列車は2011年(平成23年)7月1日 - 7日に運転され、ハ形客車6両が使用された[9]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e 『黒部峡谷トロッコ電車のご紹介(機関車・客車編)』黒部峡谷鉄道・営業センター、2016年12月。 
  2. ^ a b 旅客車の紹介/黒部峡谷トロッコ電車”. 黒部峡谷鉄道株式会社. 2023年6月10日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j 鉄道ダイヤ情報』(通巻448号)交通新聞社、2021年9月、18-19, 23頁。 
  4. ^ a b c d e f g 鉄道ピクトリアル』(通巻532号)株式会社電気車研究会 鉄道図書刊行会、1990年9月、48-49頁。 
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac 鉄道ファン』(通巻616号)交友社、2012年8月、107頁。 
  6. ^ トロッコ電車とは?現役のトロッコ電車の種類も公開中│黒部峡谷鉄道トロッコ電車”. 黒部峡谷鉄道公式ウェブサイト. 2023年6月12日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 『私鉄車両編成表2022』交通新聞社、2022年7月14日、117頁。 
  8. ^ a b c d 黒部峡谷とは?歴史や沿革をご紹介|黒部峡谷鉄道トロッコ電車”. 黒部峡谷鉄道. 2023年6月12日閲覧。
  9. ^ 黒部峡谷鉄道「創立40周年イベント列車」を運転|鉄道イベント|2011年6月11日掲載|鉄道ファン・railf.jp”. 鉄道ファン・railf.jp. 2023年6月11日閲覧。
  10. ^ 『貨物列車の世界』交通新聞社、2017年7月15日、161頁。 
  11. ^ a b c 『新しい貨物列車の世界』交通新聞社、2021年10月28日、139-140頁。 
  12. ^ 鉄おも!』(通巻161号)ネコ・パブリッシング、2021年6月、53頁。 
  13. ^ 北陸新幹線開業後の黒部市の課題” (pdf). 黒部市. p. 11. 2023年6月11日閲覧。 “新黒部駅の周辺には、休憩施設やトイレのほか、トロッコ電車のオブジェ、自転車駐輪場、電気自動車の急速充電器を設置します。”
  14. ^ a b c 笹田昌宏『保存車大全コンプリート 3000両超保存車を完全網羅』イカロス出版、2017年6月。 
  15. ^ 社会資本総合整備計画 北陸新幹線黒部宇奈月温泉駅周辺地区都市再生整備計画” (pdf). 黒部市. pp. 5-6, 9, 11. 2023年6月11日閲覧。
  16. ^ フォトギャラリー-明日キャンプ場”. 2023年6月11日閲覧。 “芝生のテントサイト「1区画6.0m*9.5m」です。(昭和9年製のトロッコ電車が有ったのですが、新幹線黒部宇奈月温泉駅の方に移転されました。)”
  17. ^ a b c d トロッコ電車 お色直し 宇奈月の水環境公園で展示」『北陸中日新聞web』中日新聞社。2023年6月11日閲覧。
  18. ^ 黒部峡谷鉄道「創立50周年記念事業」について” (pdf). 黒部峡谷鉄道株式会社. p. 2 (2021年4月13日). 2023年6月11日閲覧。

外部リンク

[編集]