インターネットのプライバシーを強化するための業界全体での取り組み
私はこの数か月間、プライバシー サンドボックスのプロダクト マネジメントを主導してきました。プライバシー サンドボックスは、ユーザーのプライバシー保護を強化しながら、無償で開かれたインターネットの世界を維持、発展し続けるために設計された一連の技術です。
エコシステムに関わる人々と共に、よりプライバシーに配慮したインターネットのために熱意と革新性にあふれる関係者の皆様と協力することは、とても刺激的で励みになっています。Chrome でのサードパーティ Cookie の段階的廃止の開始が来年に迫る中、より多くの関係者の皆さまにこの取り組みに参加していただきたいと考えています。
今後進むべき最適な道筋を探るうえで、さまざまな視点から意見を聞くことはとても大切です。この取り組みを進めるにはオープンで健全な対話が不可欠であり、プライバシー サンドボックスについて、批判も含めてフィードバックをしていただいた皆様には心より感謝しています。すべての点で意見を一致させることは難しくても、皆様との対話や議論が重要です。
こうした理由から、エコシステムとして追求すべき 4つの基本理念と、それらを指針としたプライバシー サンドボックスの取り組みを紹介します。プライバシー保護を強化したインターネットの実現を目指すすべての方にご確認いただければ幸いです。
1) プライバシーの配慮と情報へのアクセスは双方ともに普遍的であるべき
ユーザーは、オンラインでのプライバシー、特にウェブサイトやアプリで自分のアクティビティがどのように追跡され、どのようにデジタル広告に使われるか、人々はより関心をもつようになっています。一方で、これまでプライバシーに関する懸念に対処するため行われた変更により、パブリッシャーがデジタル広告を用いて事業を支えることが困難になっています。このような変更は、質の高いオンライン コンテンツへの幅広いアクセスを「無料」から「有料」に変えてしまう恐れがあります。広告なしでは、コンテンツが有料化されたり、もしくは一切提供されなくなるなど、日常生活でオンライン上の情報を頻繁に利用している何十億もの人々は不利益を被ることになります。
私たちは、収入、住む地域、その他の要素に関係なく、ニュースからハウツーガイド、娯楽動画まで、誰もがコンテンツを無料で利用できるべきだと考えています。同時に、自分のオンラインでのアクティビティに関する情報が保護されているという安心感を持てるようにすべきです。
エコシステムとしては、パブリッシャーやマーケティング担当者がオンラインでのビジネスに成功するために必要な機能をウェブサイト間のトラッキングに依存せず、プライバシーにより配慮した新しいソリューションを提供していく必要があります。そして、ユーザー向けのプラットフォーム(ブラウザやモバイル オペレーティング システム)にも、このエコシステムに対応した新たなツールを構築して、移行をサポートする責任があると考えます。それゆえ、私たちはプライバシー サンドボックスを開発し、Chrome と Android でこの技術を提供しています。
そのための道のりは、平易ではありません。断固たる行動を取ることができなければ、インターネットで誰でもアクセスできる情報が制限される危険性があります。多くの企業がともにこの課題に取り組むことが大切です。エコシステム全体で一丸となって継続的に取り組むことで、あらゆる人から情報へのアクセスを奪うことなく、プライバシーにより配慮したインターネットを構築できると確信しています。
2) 現実的で長期的に有効なプライバシー保護の実現には、実現可能な代替手法が必須
ユーザーのプライバシー保護を強化するには、エコシステムの重要なニーズを支える代替手法を構築する必要があります。一部のブラウザやオペレーティング システムでは、そうした代替手法を提供せずに、サードパーティ Cookie など、既存のユーザー識別子を制限することでプライバシー保護の強化を図っています。しかし、このアプローチは、クリエイターやマーケティング担当者を困らせるだけでなく、人々のプライバシーを保護するうえでも逆効果です。
プラットフォームがこうした配慮に欠けた方法でプライバシー保護の強化を図った場合、より目につかない形のウェブサイト間トラッキングが急増することが 調査で指摘(英語)されているのです。
ブラウザのフィンガープリントやユーザーのメールアドレスなどの個人情報に基づく識別子( メールアドレス(英語)など)といった技術を使用したユーザーの追跡やプロファイリングは、プライバシーへの配慮、コントロール、透明性の低下につながります。このような結果は、ユーザーとインターネット全体にとって不利益となります。
オープンなインターネットを支え続けながら、プライバシー保護の強化を進めることは、困難な作業です。マーケティング担当者やパブリッシャーのニーズに応える、プライバシー保護を強化した新たなソリューションを構築するには技術革新が必要です。追跡の手法を1 つ制限しただけで、ユーザーのプライバシー保護に悪影響を与える他の手法は生まれないと考えるのは誤りです。
3) プライバシーの保護を技術的に提供するソリューションが求められている
オンラインでのプライバシーに関するユーザーの懸念に対処するうえで、ユーザーのデータがどう使用されているかについての情報と、そのデータ使用を管理する機能を提供することが重要なステップです。しかしながら、それだけではウェブサイト間のユーザートラッキングを制限する課題を解決するには不十分です。ユーザーが自分のアクティビティのプライバシーを保護するのに、さまざまなウェブサイトやアプリの複雑なデータ利用ポリシーを理解するには限界があります。代わりに、プライバシーが技術的に確保されるソリューションを基盤とした「デフォルトでプライバシーが保護された」オンライン体験をユーザーに提供することが必要です。
プライバシー サンドボックス関連の API は、多くの他のソリューションとは異なり、ユーザーレベルのトラッキング識別子は使用しません。これらのAPI は、技術的にプライバシーに配慮した手法(データ集約、データにノイズ追加 、デバイス上または 信頼できるクラウド実行環境でのセンシティブなデータの処理など)を使用してプライバシーを保護します。そのため、サードパーティ Cookie や他のウェブサイト間トラッキング手法(フィンガープリントや個人情報に基づく識別子など)と比べて、プライバシー保護が大幅に向上します。また、エコシステムが耐久性の高い基盤に構築されることで、データ保護やエコシステム全体の機能を更に強化していくことができます。
プライバシー サンドボックスの設計については、相反する2つの観点から批判をいただいています。一方は、プライバシー サンドボックス関連の API はプライバシーが十分に確保されていないため、データの使用をさらに厳しく制限すべきという主張です。もう一方は、プライバシー サンドボックスでは事業者間の識別子のトラッキング機能が現在のサードパーティ Cookie のように再現されないという反対意見です。双方の意見は尊重しつつも、ユーザーのプライバシーにさらに配慮しつつ、健全なエコシステムを支えるというバランスのとれたソリューションの必要性への認識が欠けているため同意することができません。この両方の要件を満たす具体的で実用的な提案は引き続き歓迎します。この両方の視点なくして、プライバシー保護の取り組みを前に進め、同時にこの先も誰もが自由に情報にアクセスできるようにすることはできません。
4) ソリューションはエコシステムと連携して、オープンな環境に構築されなければならない
よりプライバシーに配慮したソリューションに向けてインターネットを進化させるためには、そのエコシステムに関わる皆さまの参加が不可欠で、大掛かりな共同作業となります。新しい技術を導入する場合でも、既存の技術を段階的に廃止する場合でも、変更にはオープンな議論が必要です。人々はどのようなフィードバックがあり、どのような変更がなされるかを認識できることが大切です。
プライバシー サンドボックスでは、提案や計画の 可視化を重視しており、複数のチャネルを通じてエコシステムからフィードバックを得られるようにしています。このプロセスの一環として、W3C などのエコシステムフォーラムにも積極的に参加しています。W3C には、別のアプローチでプライバシーの保護を強化し、オープンなインターネットを支えることを選択したプラットフォームおよびブラウザ提供企業も参加しています。なお、こうした企業の中には、公開の意見交換やフィードバックプロセスを経ることなく、混乱を招く変更を行ったケースがあることも付け加えておきます。
私たちは、英国の Competition and Markets Authority(CMA 競争・市場庁 )および Information Commisioner’s Office(ICO 個人情報保護監督機関)への コメットメント(英語)を通じて、プラットフォームの変更にあたっては、プライバシー保護の効果だけでなく、適正な競争、パブリッシャー、広告主、ユーザーの選択への潜在的な影響を考慮し対話しています。また、世界中の多くの国で政府機関とオープンに対話できるように心がけ、私たちの取り組みをお伝えしています。
あらためて、プライバシー サンドボックスにフィードバックを寄せていただいた皆様に感謝いたします。皆様からのご意見やご提案は、ユーザーや企業にとってより良いプライバシー サンドボックス関連の API を構築するうえで重要な役割を果たしています。たとえば、去年 発表した「Topics」は、以前の FLoC の提案に寄せられたフィードバックに基づき変更したものです。 TURTLEDOVE を発展させて FLEDGE を開発したときも同じように、エコシステム関係者の皆さまとの生産的な対話が基になっています。
また、プライバシー サンドボックスの開発を進める中で、多くの企業から、私たちのアプローチを支持し、プライバシー保護を強化しつつオープンなインターネットを支えられる新しい技術をエコシステムが必要としていることに同意する声が寄せられました。
IAB UK CEO Jon Mew 氏からは、下記のような意見をいただきました。
「オンラインでの人々のプライバシー保護を強化することは、デジタル広告エコシステム、さらには長期的に持続可能なオープンウェブの実現にとって基本とも言える優先事項です。これは簡単な作業ではありません。無作為ではなく関連性に基づいたターゲティングをどのように確保し、効果をどのように測定するか、などの質問はどれも重要なものです。こうした問いに答えられるかどうかは、私たちが連携して、エコシステム全体を上げて提案されたソリューションのテスト、検証、フィードバックにエコシステムが取り組めるかどうかにかかっています。IAB の全会員は、何が適切に機能し、何をさらに改善すべきかを明確にするうえで非常に重要な役割を担っています。Google がプライバシー サンドボックスを通じて広範なエコシステムと連携してくれているアプローチを高く評価しています。」
今、皆様とともに築いている未来について、楽観的な見通しを持っています。もちろん、変化には困難が伴います。これまで二十年以上も依存してきた技術から移行する場合は特にそうです。もちろん、こうした複雑で議論の分かれる重要なテーマにすべての人が賛同するわけではありません。私たちは、異なる意見を調整するべく連携に努めながら、前進し続けます。
2023 年には、より多くの人々がプライバシー サンドボックスを利用できるようになります。エコシステムと連携して、これらの新技術をさらに大規模にテストし、導入していきます。そして2024 年には、Chrome でサードパーティ Cookie を段階的に廃止できる体制が整う予定です。その間、インターネットのプライバシー保護の強化に向けて、引き続き皆様とともに連携、対話、議論を積極的に行ってまいります。