グローバリストとナショナリストの対立が21世紀の闘争なのだ。ダボス会議や国際的な機関が意思決定すべきだという勢力と民主主義を信奉する勢力の闘いだ。政治体制、文明を懸けた戦争だ

以下は9/26に発売された月刊誌WiLLのp222に、米国を立て直すのはトランプしかいない、と題して掲載された、ジョン・フォンテ、米ハドソン研究所上級研究員兼米国共通文化センター所長、聞き手・構成/早川俊行として掲載された特集記事からである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読である。

国家が自国民の利益を第一に考えるのは当然のこと!
11月の米大統領選は、バイデン政権が招いた記録的な不法移民流入への対応が主要争点の一つになっている。
議論の根底にあるのは、国家主権や国境を時代遅れのものと見なすグローバリズムをめぐるイデオロギー対立である。 
バイデン大統領の後継者である民主党のカマラ・ハリス副大統領は、米国史上最もリベラルな大統領候補と言われ、ハリス氏が当選すれば、大規模な不法移民の流入が続き、社会の分断が一段と加速する可能性が高い。 
対して、共和党のトランプ前大統領は在任中、国連演説で「グローバリズムイデオロギーを拒否し、愛国主義の原則を信奉する」と明言した。
そんなトランプ氏が当選すれば、「米国第一主義」に基づき、移民よりも自国民の利益を優先する政策を推し進めることは間違いない。  
トランプ前政権が進めた反グローバリズム路線に影響を与えたのが、グローバリズムから国家主権を守る 重要性を説いた『Soveeignity or Submission(主権か服従か)』(未邦訳)という一冊の書籍だ。
著者のジョン・フォンテ氏は、政治思想に精通する保守派の論客で、現在は有力ジンクタンク、ハドソン研究所上級研究員兼米国文化共通センター所長を務める。 
今回の大統領選は、トランプ氏とハリス氏のどちらが選ぶかで国家の針路が決定的に異なる「運命の分かれ道」となる。 
フォンテ氏は今回の大統領選の意義をどのように見ているのか。
ワシントンにあるハドソン研究所を訪ね、話を聞いた。

最も急進的な左翼政権
-バイデン政権は米国社会をどう変えたか。
フォンテ 
バイデン政権は米国史上、最も急進的な左翼政権となった。
これはオバマ政権以上だ。 
バイデン大統領やカマラ・ハリス副大統領は、米国は構造的に人種差別的、性差別的な国だと言い続けた。
有色人種や女性、LGBTQ(性的少数者)を抑圧、疎外してきたというのだ。 
このため、バイデン政権ではあらゆる機関がDEI(多様性・公平性・包括性)に基づいて人材を採用している。
人種や性別、性的指向などに基づくクォーク制だ。
その人に能力や経験があるかどうかは関係ない。
黒人、女性、トランスジェンダーという理由だけで登用されている。 
また、バイデン政権は国境を開放した。
800~1000万人が不法入国したと言われているが、正確な数字や居場所は分からない。
大統領の第一の職務は法律を忠実に執行することだが、バイデン氏は移民管理法の執行を拒否している。
そのような大統領は過去にいない。
オバマ大統領もそこまではしなかった。


ーバイデン政権下で続く記録的な不法移民の流入は、米社会にどのような影響を及ぼすか。
フォンテ 
すでに多くの混乱が生じている。
入国審査がないため、犯罪者が入ってきており、ニューヨークやロサンゼルスでは犯罪が多発し、女性が襲われていたりする。
「MS13」など中南米の凶悪なギャングも増えている。 
不法移民にシェルターやホテルが提供され、莫大な資金が費やされている。
不法移民の多くは十分な収入のない低所得者であり、社会保障や教育・医療サービスの負担が増える。
彼らが米国人労働者よりも安く雇われれば、米国人の賃金を引き下げる要因になる。
これらはすべてバイデン政権の政策の結果だ。
マイナスの影響しかない。

ー米国にはかつて、新たな移民は米国の伝統や文化を積極的に受け入れるという「愛国的同化」の伝統があった。
だが、米国社会に溶け込む意識の薄い不法移民の大量流入は米国を分断しかねない。
フォンテ 
その通りだ。1880年から1924年まで多くの移民を合法的に受け入れていたが、「アメリカナイゼーション(米国人化)」の概念が定着していた。 
移民に入国を認める一方で、英語を学び、米国の歴史を自分の歴史として受け入れるなど、徹底的に米国人になることを求めたのだ。 
1924年に移民を制限する法律が成立したが、60年代半ばに再び移民の受け入れが始まった。
しかし、アメリカナイゼーションの代わりに採り入れられたのが「多文化主義」だ。 
移民は英語や米国文化の受け入れを求められなくなった。
自分たちの言語や文化を維持するのみならず、米国の主流文化に敵対するようになった。

ー11月の米大統領選で、バイデン氏の後継者であるハリス氏が当選し、不法移民の大量流入が続いた場合、米国社会はどうなるのか。
フォンテ 
極めて危険な状況になるだろう。
彼らはこれらの移民に投票させて米国民を圧倒し、新たな統治体制をつくり出したいと考えている。
これは本質的に革命だ。
かつてのマルクス主義者や共産主義者たちが体制を変えようとしたのと同じだ。 
これが民主党のゴールだ。
彼らは米国を欠陥のある国家と見なし、オバマ氏がかつて述べたように、米国を「根幹からトランスフォーム(変革)する」ことを目指している。
大量の移民を通じて、これを実現しようとしている。 
そうなれば、米国はこれまでの米国ではなく、まったく別の国になる。
立憲民主主義ではなく、巨大な官僚機構によって運営される新しいタイプの体制になる。

民主党政権は政治目標のために不法移民の大量流入を許しているということか。
フォンテ 
政治権力を手に入れることが目的だ。
移民の多くは低所得者であり、福祉国家のクライアント(顧客)となる。
彼らは生活保護を求めて民主党に投票する。
政府や官僚機構の規模は拡大され、福祉国家は強化される。 
そうして民主党は完全に権力を掌握し、社会主義的な体制をつくり上げるだろう。
これは世界的な取り組みへと発展し、国家の権限が超国家機構へと移譲されるだろう。
結局は権力の掌握が目的だ。
彼らは今の米国を嫌い、根幹からトランスフォームしたいのだ。
 
グローバリズムが狙う世界
国境開放を求めるグローバリズムの支持者たちは、世界をどのように変えようとしているのか。
フォンテ 
国家の力を弱め、国家を超国家的な機関に従属させたいと思っている。
つまり、意思決定の権限を国家からダボス会議世界経済フォーラム年次総会)のビジネス団体や国際機関の官僚らに移譲させようとしている。 
米国や日本などでは、国民が代表者を選び、その代表者が決定を下す。
国民の同意に基づく統治が民主主義だ。
だが、超国家機関が国民の同意なしに決定を下すのは民主主義ではない。 
最も重要なのは「フー・ディサイズ?・(誰が決めるのか)」だ。
決定を下すのは国民か、それとも超国家機関か。
新たな感染症パンデミック(世界的大流行)が発生した場合、対応策を決めるのは国家か、それとも世界保健機関(WHO)か。
WHOは各国への提案にとどまらず、一定のルールを設けようとしている。

ーフランスなど欧州諸国では、右派政党が伸張している。
これは行き過ぎたグローバリズムに対する反動と見ていいか。
フォンテ 
そうだ。私は彼らを民主的な「国家主権主義者」と呼んでいる。
極右ではない。
中道右派だ。
多くの一般庶民が望んでいることを代弁しているからだ。 
移民問題は欧州諸国を右寄りにさせるほどの大問題となっている。
国民が深刻な問題ととらえているのに、政権を担う中道・左派政党は何もしてこなかったからだ。 
もう一つの大きな要因は、極端な気候変動対策だ。
脱炭素で農業を規制する政策が農家の激しい反発を招いている。

ー日本も人口減を受けて、移民を積極的に受け入れる方向に進んでいるが。
フォンテ 
どのくらいの移民を受け入れるか次第だが、その数が増えれば増えるほど、問題も増え、日本社会は変わっていく。 
西欧諸国を見れば分かるが、移民の大量受け入れは社会を傷つける。
フランスでは人口の約10%がイスラム教徒だが、過激なイスラム主義者やテロリストも入ってきている。

社会を完全に変える
ー米国社会を二分する「文化戦争」をどう見る。
フォンテ
大学やメディア、一部大企業、ハイテク業界などの主要機関で支配的になっているのが、「ウォーク(意識高い系)主義」と呼ばれるものだ。
多文化主義」に始まり、「ポリティカル・コレクトネス」「アイデンティティー政治」などさまざまな用語が生まれているが、マルクス主義に基づく進歩的ビジョンという点ですべて同じだ。
階級ではなく、人種、民族、ジェンダーなどで国民を分断し、社会を完全に変えようとする考え方である。 
一方で、国民の大多数は伝統的な米国を支持し、米国を根幹からトランスフォームしようとするウォーク主義を拒否している。
2016年にトランプ氏が当選したのもその表れだ。
従って、大多数の米国民と特定主要機関の間には大きな相違がある。 
私はこれを愛国的な「アメリカニス卜(米国主義者)」と反米的な「ウォーク進歩主義者」の対立と呼んでいる。
この二つのグループは全く異なる文明、全く異なる生活様式を持っている。 
クレアモント研究所の研究員だった故アンジェロ・コードヴィラ氏は、この対立を「冷たい内戦」と形容した。
冷戦時代のように、相容れない二つの体制が撃ち合うことなく敵対している状況だ。
これは1860年代の南北戦争時の状況と似ている。
当時も一つの政府の下で、二つの異なる文明、二つの異なる生活様式が存在した。
これは極めて危険な状況だ。
リンカーン大統領が述べたように、こちらが勝つか、相手が勝つかの状況だ。
私は伝統的な米国が生き残ると思っている。
物事が正しい方向に進み始めているからだ。
しかし、長く困難な戦いになるだろう。
 
文化マルクス主義の正体
マルクス主義の本質は、国民を分断して対立させることだ。
フォンテ 
その通りだ。マルクス4主義は「抑圧者」と「被抑圧者」の二つのグループに分ける。 
かつては「労働者」対「資本家」だったが、今は違う。
「白人」「男性」キリスト教徒」対「有色人種」「女性」「LGBTQ」だ。 
これはかつてのマルクス主義でほなく、「文化マルクス主義」と呼ばれるものだ。 
イタリアの文化マルクス主義者、アントニオ・グラムシは、重要なのは経済ではなく思想だと言った。
思想が文化を変える。
共産主義革命を成功させるには、思想を支配する、つまり思想的なヘゲモニーを握る必要があると主張した。

―「文化マルクス主義」は人種差別反対や多様性尊重を隠れ蓑にしているため、対抗するのが難しい。
フォンテ 
文化マルクス主義の正体を暴く必要がある。
彼らのゴールは自由ではない。
権力を掌握することだ。
これを推進しているのは、悪い人たちだ。 
米国ではすでに、文化マルクス主義の主な考え方に批判が起きている。
例えば、保守派知事の多くがDEIプログラムへの支出を中止した。
米国は構造的に人種差別的だとする「批判的人種理論(CRT)」についても、トランプ氏が退任直前に連邦政府機関でのCRT研修を禁止した。
トランプ氏が当選すれば、再び禁止されるだろう。 
文化マルクス主義に対抗するもう一つの方法は、われわれが愛国者だと訴えることだ。
彼らは米国を過去400年間、組織的に人種差別を行ってきた邪悪な国家だと批判するが、われわれはそれを拒否する。
米国を支持し、祖先を敬い、コモンセンス(常識)を重んじる。
これがわれわれのゴールであり強みだ。 
左翼勢力は自分たちの制度や伝統、祖先を憎む。 
彼らが推し進める「ウォーク革命」との戦争の真っただ中なのだ。
これは日本でも同じことが言えるだろう。
 
生活様式や文明を懸けた戦争
―今回の大統領選は、米国の文化戦争にどのような意味を持つか。
フォンテ 
今回の大統領選は文化以上のものが懸かっている。
生活様式や文明を懸けた戦争だ。 
トランプ氏は伝統的な米国を代表し、ハリス氏は米国を憎み、根幹からのトランスフォームを目指すウォーク革命を代表している。
つまり、米史上最も重要な選挙の一つといっていい。
ートランプ氏が勝利した場合、この戦争はどうなるか。
フォンテ 
トランプ氏はウォーク革命を押し返し、米国という国家の復活の始まりとなるだろう。
ただし、一進一退の戦いになる。
決して完璧には進まない。
米国の文明を懸けた長期戦だ。
数十年にわたって続くかもしれない。
ー社会の潮流を変えるには、時間が必要ということか。
フォンテ 
ウォーク革命の潮流は長い時間をかけて徐々に広がってきた。
オバマ氏が大きな後押しをしたことは確かだが、突然出てきたものではない。 
オバマ氏は1980年代に社会主義者の訓練を受けた。
彼らは40年前から取り組んできた。 
従って、この潮流が一朝一夕に消えることはない。
トランプ氏が当選すれば、それは望ましいことだが、同氏の後も戦いを続ける者を選ばなければならない。 
米国だけではない。
欧州でも、欧州連合(EU)の加盟国に対する意思決定権をめぐる権力闘争が続くだろう。
つまり、グローバリストとナショナリストの対立が21世紀の闘争なのだ。
ダボス会議や国際的な機関が意思決定すべきだという勢力と、立憲民主主義を信奉する勢力の闘いだ。
政治体制、文明を懸けた戦争だ。
この稿続く。
 
 

2024/10/13 in Umeda