カスタマーレビュー

2014年3月22日に日本でレビュー済み
 この本の、私にとって、良い点は、国連が第二次世界大戦後に形成した「国際人権基準」を紹介していることである。そして、ヘイト・スピーチを字句通りの「憎悪表現」という感情一般として解釈すべきではなく、人種、民族、性、或は障害者などの少数者(マイノリティ)に対する差別に基づく攻撃を指す、との解釈で論じていることである。また、世界の中で、日本がこの「国際人権基準」に対してどのような状況にあるかも説明されていて興味深い。残念ながら、日本は、北朝鮮の拉致被害者を取り戻そうと国際社会に訴えている割には、この点に於いてはあまりいい位置には居ない。

 著者の言いたいことはこうだ。日本においては、近年の在日朝鮮人へのヘイト・スピーチや、昔から部落民と呼ばれ、賤民と虐げられてきた人びとや、アイヌの人達への差別があった、しかし、日本にはそういう差別に基づくヘイト・スピーチを取り締まる法律が無い、政府の言い分は、言論の自由に基づき、言論による攻撃は取り締まるのが難しいためだと言う、一方で、セクシャル・ハラスメントに対する法による取り締まりはあるのだから、全ての言論を自由という名の下に野放しにしているわけではなく、要は、国がこういう人種差別的な行為を取り締まる気があるかないかなのだ、と著者は糾弾するのだった。

 一方で、この本の悪い点は、外国人に対する批判や法的な対応をすべて差別、として見ている点である。竹島に上陸した韓国大統領に抗議して日本政府が大使を韓国から引き上げたことを、「喧嘩腰の態度を示した」とか、「河野談話の見直しや靖国神社に祀られた英霊の賛美など、反中国・韓国・朝鮮の姿勢をあらわにした」、など、その他にも幾つか、およそ表面だけ見てその奥にある物を見ようとしない短絡的な態度には、辟易する場面もある。

 さはさりながらである、ヘイト・スピーチを端とするある種の日本人の心の奥にある外国人嫌い(xenophobia)や、拝外性について警鐘を鳴らしているので、時には気分の悪くなる部分もあるかもしれないが、我慢して一読した方がよいと思うのである。
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