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オークション理論と実証入門 
第40回Tokyo Webmining 
2014年11月29日 
@kazukibs
目次 
• オークションとは 
• 歴史 
• オークションの種類 
• 応用例 
• 理論的な諸々 
• 実務的な諸々 
• 実証分析の例 
1
自己紹介 
• ID: @kazukibs 
• 現職:オークションの比較サイトで分析 
• 専門: 経済学 
(博士課程中退) 
- ゲーム理論、メカニズムデザイン 
-産業組織論、特にオークション 
-限定合理性、行動経済学、実験経済学 
2
どんなことをしているか 
• 落札額予測 
→何が価格に影響しているのか? 
→即決価格をどう決めるかの提案 
• マッチング(名寄せ) 
→分布が出せる→最適オークション 
• 価格のフィルタリング 
• (レコメンデーション) 
3
オークション設計の目的 
主に以下の2つ(他にもあるけど割愛) 
-効率性 
(最も欲しがっている人に落札されるか?) 
-売り手の収入最大化 
4
メカニズム 
• 出そろった入札の組み合わせに基づき 
1.配分(誰が商品を受け取るのか) 
2.支払い(どんなときにいくら払うのか) 
を決める 
5
研究の種類 
• 理論 
ゲーム理論など数学を応用して分析する。 
• 実証 
落札などのデータを用いて分析する。 
入札者の行動を理論からある程度仮定してみる 
アプローチ(構造推定)や落札価格/数/率などに 
なにが影響しているかを見たりまでさまざま 
• 実験 
上記では手に入らない情報が使える(商品への評価額)、 
条件のコントロールができる(例えば参加者の人数) 
など。 
6
関係するノーベル経済学賞受賞者 
• 1994 Harsanyi, Nash, Selten 
• 1996 Vickrey 
• 2002 Smith 
• 2007 Hurwicz, Maskin,Myerson 
• 2012 Roth, Shapley 
注:関係している具合は独断です 
7
オークションの歴史 
▼最古の記述 
ヘロドトスの「歴史」 
バビロニアでの婚姻オークション 
美人から順番に 
▼帝位争奪オークション 
ローマで2人が兵士への給料で競う。 
勝者(ディディウス・ユリアヌス) 
は約束通りに支払いができず処刑された。 
▼堂島米市場 
世界最古の先物市場。 
8
4つの主要フォーマット 
最高値2番目の高値 
公開競り下げ(ダッチ) 競り上げ(イングリッシュ) 
封印一位価格封印二位価格封印 
9
4つのフォーマットの使用例 
• 競り下げ 
花卉市場@大田 
• 一位価格封印 
公共工事オークション、野球のポスティングシステム 
• 競り上げ(イングリッシュ) 
インターネット・オークション、美術品 
• 二位価格封印 
DSP、インターネット・オークションの自動入札 
10
オークションサイト 
11
その他の利用例 
• 国債、新規発行株(一部) 
封印式、二位価格 
• グーグル・アドワーズ 
一般二位価格方式を現在は採用。 
• 電波、空港発着枠、電力、排出権取引など。 
12
経済学的な分析 
単純化するために 
各買い手は 
• 自分の評価額を知っている=私的価値 
• 他人の評価額は(確率的な)分布しか知らない 
• ある同一の確率分布に従うと予想=分布の対称性 
• 買い手間の評価額に相関はない=分布の独立性 
• 「評価額ー支払い額」が大きいほど嬉しい 
• リスク中立的 
• 予算に制約がない 
• 買った財を転売できない 
と仮定する 
13
二位価格封印、競り上げ 
• 自分の評価額に達するまで入札するべき 
支払いは自分の入札とは無関係だから。 
―もし評価額より高くつけると: 
落札してしまった場合マイナス 
―評価額より低くつけると: 
評価額と入札の間で落札されるケースを 
考えたときに状況を改善できたことになる。 
14
一位価格封印・競り下げ 
• 考えるべき点は 
-勝つ確率を上げる 
―落札できるなら安い方がいい 
高い入札は勝つ可能性を上げるが、勝った時のうま味が減る。 
→バランスをとらなくてはならない。 
→最大化問題(確率論・微分など使う)を解く。 
ビッドシェイディング(自分の本来の評価より低くする量= 
評価-入札額)は入札の参加者が増えるほど減っていく。 
入札額は高くなる。 
15
All Pay Auction 
• ペニー・オークション 
ネット上で手数料払ったのに落札できないという不 
満があるのはお門違い。その分勝てた時に支払う 
額は他のルールより低くなっているはず。 
ただし、 
サクラにものすごく弱い。アカウントに制約付 
けたところで談合したら可能。この意味での批判は 
妥当。 
• ロビー活動 
16
戦略的同値性 
• 2位価格封印入札とイングリッシュ 
どちらも自分の評価額を(まで)入札するという 
意味において弱い意味で同じ。 
“弱い”と言っているからには違いがある。 
―イングリッシュにはジャンプがある。 
• 1位価格封印入札とダッチ 
考え方は同じ。 
共通して言えるのは公開型では他の人の評価が 
わかる。確固たる評価をしていないときはここが違 
いを作る。(後述) 
17
収入同値定理 
• 最低の評価をする人は何も支払わない 
• 評価は同一分布から来ていてかつ独立 
• 危険中立 
これらの条件を満たすとき、一位価格封印形式 
と二位価格封印形式で売り手の期待収入は等 
しくなる 
(もう少し一般的に言えるが割愛) 
18
収入同値定理(続) 
一位価格と二位価格における期待収入が同じ 
であることの直観的イメージ: 
2番目に高い人をぎりぎりでアウトビッドできるよ 
うに入札しよう!(皆が同じ考えだとして) 
19
最適オークション 
• 最低落札価格(≠開始価格)を上手く設定する 
と売り手にとって期待収入を最大化できる。 
• 最低落札価格が2番目に評価していた人より 
高いと、その分儲けが増える可能性がある。 
>取引が成立しないコスト 
これを満たすように設定すれば〜という直観。 
20
最適オークション(続) 
• 但し皆にとって価値がほぼ同じだと青い部分 
の想定される確率がかなり低くなってしまうの 
で、最低落札価格は設定しない方がいい 
• そもそも最適な最低落札額を設定するよりも 
参加者を1人増やした方が収益上がると言う 
元も子もない研究結果がある。 
(理論的にではあるものの) 
21
共通価値、相互依存価値 
• 油田の採掘権、転売目的の商品 
事後的に同じ(似たような)価値を 
持つような商品 
• もはや収入同値は成り立たず 
• イングリッシュ>二位>一位 
• 何故イングリッシュが二位価格より高く値が 
つくのか?→ 入札から降りた人の評価が分 
かるので評価をアップデートできるから。 
22
共通価値の結果 
▼勝者の呪い(言葉の定義が人によってまちま 
ちなので要注意): 
一番高く見積もった人が落札するので、そのことを考えずに適 
当に入札すると実際の価値よりも払いすぎてしまう。理論上は 
そのことを加味し入札する 
▼瀬戸際入札がなぜ起こるのか?自分の入札 
で他の人の評価を上げさせたくない。終了ギリ 
ギリだとその可能性を減らせる。 
実際アンティークなどの方が瀬戸際に入札され 
る比率が高い(eBayでの結果) 
23
外部性付きオークション 
• オークションで扱われるものの中には自分が 
落札できない場合誰が落札するかが重要な 
場合がある。 
• 卑近な例:野球のポスティング。 
自チームにいらなくてもライバルを弱体化させたい。 
わざと高額で落札し、交渉を破談に! 
(以前のシステムはこの点を考えて設計されていなかった) 
24
談合 
• あらかじめ誰が落札するか決めておき、 
落札価格を低く抑えるようにする。 
どちらにせよ最高の評価をする人が落札する 
が・・価格が低くなった分を見返りとして分配し 
よう。 
• 繰り返し(公共調達オークション)今回は○○ 
社が落札するので次回は△△社が・・など 
25
構造推定vs誘導推定 
• 構造推定 
理論を元にどのようにデータが 
生成されているかを考えつつ推定 
• 誘導推定 
変数が与える影響にフォーカスする 
26
オークションでの構造推定(例) 
• 入札者がその商品にどんな評価をしているか 
分布を見たい。 
• 入札額から逆算して評価額を割り出す。 
• 問題点 
- サイトにアクセスしたときに既に自分の評価を 
超えていたらそっとブラウザを閉じる。 
- 入札にジャンプが起こることが多い。 
27
構造推定 
• 入札履歴があれば理想的 
でも度々落札価格しか記録されていなかったりする。 
同じ商品の結果をたくさん集めてこれたらその落札価格が 
起きる確率を逆算して元の分布が割り出せる。 
→ 
名寄せが使える! 
28
何故評価の分布を知りたいのか? 
• 開始価格を適切に設定することで収益を上げ 
やすくなる。 
• 即決価格をうまく設定するのに役立つ(かもし 
れない) 
29
開始価格がある場合 
PDF 
開始価格入札額 
30
どうするか? 
• Tobit Model 
逆ミルズ比、最尤推定 
• Heckit Model 
参加するかどうかをprobitモデルで推定し 
参加後のものを最小二乗法で推定する 
2段階推定 
などの方法がある。詳しくは例えば 
Amemiya(1985) 
31
誘導系 
• ヘドニックアプローチ 
製品のスペックを説明変数として 
商品の価格を推定したり 
(不動産の例で使われることも多い) 
家電・PCなどがやりやすい 
オークションでは商品の特徴のみならず 
出品の仕方なども使える場合がある 
• 出品者の評判や配送方法など 
▼ダミー変数作り 
→形態素解析 
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Ashenfelter方程式 
• ワインの質 
=12.145+0.00117×冬の降雨 
+ 0.0614×育成期平均気温 
‐ 0.00386×収穫期降雨 
ワインのオークションでの落札額を回帰分析で 
33
商品そのもの以外で使える特徴量 
• 送金方法 
• 商品説明(自然言語処理と組み合わせて使 
える) 
• 送料(理論とは裏腹に無料に意味がある) 
• 終了時刻(夕方が多い) 
• 開催期間(長い方が入札は多くなる[当然]) 
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参考文献 
• Krishna (2009), Auction Theory (2nd), Academic Press 
• 坂井豊貴:マーケットデザイン入門 
• Klemperer (2004), Auctions: Theory and Practice, 
Princeton Univ. Press 
• ケン・スティグリッツ:オークションの人間行動学 
• Bajari and Hortacsu(2004), “Economic Insights from 
Internet Auctions” JEL 
• 上田晃三(2010),オークションの理論と実際:金融 
市場への応用 
35

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