「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」。 本書の答えを乱暴にまとめれば、新自由主義に内面を侵され、コスパ意識きわまったためだ、という事になる。このせいで、現代日本の会社員は仕事以外の文脈、自分から遠く離れた文脈(p.234)を含むもの、すなわち「ノイズ」を多く含む読書をしなくなった。 代わりにコントロール可能な自分の行動にターゲットを限定した自己啓発書と、「今」ここの知識でのみ勝負し、自分の外部にある文脈や社会を「ノイズ」として排除する、ひろゆき的論破で済ますようになったという(p.204)。現実の複雑さ、自分にとって未知なるもの、言い換えれば「ノイズ」を体験できる事こそ、読書の真価であるのに……という論調だ。 「本」とは、自己啓発書等ではなく、主に小説を指すようだ。冒頭で『ゴールデンカムイ』も挙がるので、漫画も、労働すると読まなくなる書物に含めてよいだろう。『花束みたいな恋をした』とい