『坂の上の雲』「(4)青雲(後編)」2024-10-05

2024年10月5日 當山日出夫

『坂の上の雲』 (4)青雲(後編)

録画をようやく見たので、見ながら思ったことを書いておく。

いうまでもないことであるが、このドラマでは軍人、軍隊というものを肯定的に描いている。司馬遼太郎は、昭和戦前の軍部に対してはきわめて批判的であった。特に統帥権を理由に横暴をきわめたと、厳しく非難している。だが、司馬遼太郎は絶対的な理想的平和主義者ではなかった。『坂の上の雲』はもちろん『飛ぶが如く』においても、軍事を否定していない。いや、そこに意味を見出した人間たちのことを描いている。

日本の近代の軍隊を肯定的に描いている、という意味では、このドラマは意味のあることかもしれない。

いつごろからだろうか、軍隊、軍人、というものを否定的にしか見ないようになったのは。私の子どものころに読んだ漫画雑誌、「少年マガジン」などであるが、これには、戦艦大和のことも、ゼロ戦のことも、載っていた。戦記漫画としては、『紫電改のタカ』(ちばてつや)が連載された時代である。『サブマリン707』(小沢さとる)も、架空のものとはいえ戦記漫画といっていいだろう。テレビドラマでも、映画でも、戦争をあつかったものが……その多くは肯定的に描いているのだが……多くあった。

昔の朝ドラの『おはなはん』の結婚相手は、陸軍の軍人さんだった。

いつごろから、戦争を否定的にしか見てはいけないような雰囲気になってきたのだろうか。だからといって、戦争を肯定する気持ちはまったくないのだが、昭和の戦後の歴史、文化史の流れとしては、興味深いことではある。今日の普通の反戦平和思想が戦後になっていきなり生まれたということではなく、これにいたる歴史がある。

このドラマで登場している、屋根のある橋。できれば、ここには一度行ってみたいと、昔のドラマの放送のときから思っている。松山郊外と設定されている田園風景とそこで働く人の姿が美しい。(実際には、封建的な地主制度のもとでの苦労ということはあったにちがいないが。)

正岡の家の母親の原田美枝子が、いい感じである。ちょっと古風で、そして、どことなく品のある、年配の女性の雰囲気をよく出している。原田美枝子については、たぶんそのデビュー作だったろうか、映画で見たのを憶えている。東京で学生のときだった。映画のなかでは女子高生の役だった。私の若いころ、女子高生の役をしていて、今は、おばあさんの役が似合う女優というと、他には、松阪慶子がいる。NHKのドラマの『若い人』で、北海道の女学校の生徒(江波恵子)の役であった。

好古は、松山藩の若殿様……もう、藩は無い時代になっているのだが、松山藩の士分であった好古にとっては、若殿様ということになる……のお供をして、フランスに行って騎兵を学ぶことになる。このドラマでは、あまり明治の藩閥ということを描かない。だが、この時代、松山藩の出身というだけで、時代の流れとしては傍流であったかもしれない。だからこそ、好古と真之の活躍が目立つ、ということになる。

以前に見たときには気づかなかったが、好古がフランスで馬の世話をしている場面で、「MATSOUKAZE」と背景に文字が見えたが、これは馬の名前(フランス語式ローマ字)でいいのだろうか。

茶碗を一つしか持たないという好古の生活のスタイルは、今では何といえばいいのだろうか。清貧というのとはちょっと違うようだだ。ミニマリストでもないかなと思う。廉直とでもいえばいいだろうか。薪を割るシーンがあったが、これは実際にはかなり難しい。役者の阿部寛の腕といっていいだろうか。

松山に帰ってきた真之が父親と大街道で出会って、おたがいにそしらぬふりをしてすれ違った、繁華街のまんなかで久しぶりの親子の対面など恥ずかしい……このエピソードは、原作の司馬遼太郎の『坂の上の雲』にも出てきた。松山の大街道の商店街は、何回か行ったことがあるが、明治の昔はどんなだったろうかと思いながら歩いたものである。

律は、一身独立といっていた。たしかに、このドラマにおいて、律という女性の生き方は、正岡子規のために捧げられるようなものであるが、しかし、一方で自立心の強い女性として描かれている。

広瀬武夫が登場してきている。原作には、登場しない。あるいは、名前ぐらいはどこかで出てきていただろうか。旅順港閉塞作戦のことは、原作の『坂の上の雲』にも出てきたかと思う。だが、このドラマでは、広瀬武夫を非常に重要な人物として描いている。『ロシヤにおける広瀬武夫』(島田謹二)は今でも持っている。書庫のどこかにしまってあるはずである。『アメリカにおける秋山真之』も持っている。

かつて、東京に広瀬武夫の銅像があったことは、歴史の智識としては知っている。軍歌『広瀬中佐』も、私の年代の人間なら耳にしたことがあるだろう。広瀬武夫を軍神としてあがめる時代でない。しかし、その事跡は歴史のなかに残っているといっていいだろうか。

2024年10月4日記

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