Ack Ackとは、第二次世界大戦中に用いられた「高射砲」を意味するスラングである。
本項では1966年生まれのアメリカの競走馬「アックアック」について解説する。
距離不問、芝ダート不問を誇る、セクレタリアトやシアトルスルー、アファームド、スペクタキュラービッドなどスターホースが綺羅星の如く集まった1970年代アメリカ競馬の先陣を切った優駿。
「アクアク」と表記される事もあるが、本項ではアックアックで統一する。
生い立ち
父Battle Joined、母Fast Turn、母父Turn-toという血統。
父バトルジョインドはステークス競走を複数勝ったが、競走馬としても種牡馬としてもさほど目立った成績は無く、本馬が代表産駒である。本馬が産まれた時期は出生条件で種付け料500ドルというお値打ち種牡馬だった。
母ファストターンは不出走だがその母、つまりアックアックの祖母はCCAオークス馬のチェロキーローズである。母父ターントゥは大種牡馬ヘイルトゥリーズンとサーゲイロードの父親である。
父系は「ドミノ系」という、19世紀末期のアメリカが誇るスターホース、ドミノから端を発する系統だが、肝心のドミノは早世し僅か20頭の産駒しか残せなかった。しかしその系統は産駒であるコマンド、孫のコリンを介して繋がり続けていた。
近親にはプリークネスS優勝馬で種牡馬として活躍したトムロルフ、少し時代は下るが典型的な「生まれる年が悪かった馬」ことシャムがおり、遠戚にはみんなご存じゴールドアリュールがいる。
高初速の高射砲
さて、そのアックアックは2歳10月のベルモントパーク競馬場でデビューし2着。連闘した次戦には勝ち上がり、同月にもう1戦(2着)して2歳シーズンを終える。3戦1勝。
転厩した3歳シーズンは1月からスタートし、バハマズSを含む3連勝を飾る。ここまで最長でも7ハロン戦を選択していたが、次戦に9ハロン(1800m)のレースを選択すると5馬身半離された4着に敗退。
一般競走を2戦し2着・1着とした後、ケンタッキーダービーの前哨戦であるダービートライアル(1マイル)をレコードで7馬身差圧勝し、一応ケンタッキーダービーには出られる格好。しかし陣営は三冠路線を回避し、マイル路線を進ませることに決める。これが功を奏したのかウィザーズSとアーリントンクラシックSという2つの3歳マイル路線の大レースを制した(前者は降着による繰り上がりだけど)。ちょくちょく8.5ハロンとか9ハロン戦に出て負けたのは内緒よ。
6月のアーリントンクラシックSで3歳戦を切り上げ、11戦7勝、2着3回の好成績を残す。
名門チャールズ・ウィッティンガム厩舎に転厩して拠点を西海岸に移した4歳シーズンは4月のプレミエールHからスタート。以後基本的に米国の名ジョッキーであるウィリー・シューメイカー騎手とタッグを組むこととなったが、流石に8ヶ月ぶりのレースはキツかったか4着に敗戦。しかし次戦には完全に復調し、9月に行われた一般競走にてダート5.5ハロンを1分02秒2のコースレコードで制するなど、その高いスピードを遺憾なく発揮。
4歳シーズンは5戦4勝。ここまで見れば一流の短距離馬であるが、
彼の物語はこれからが本番でございます。
戦場不問の万能砲
5歳シーズンの1971年は円熟期となる。この頃になると彼の本領である所の「逃げ」に磨きがかかる。
初戦のスプリント重賞で3馬身離されて負けたのはご愛敬。しかし次戦のサンカルロスHを快勝し、それまで敗戦していた8.5ハロンと9ハロン戦のサンパスカルHとサンアントニオHを連勝。斤量は57kg以上を超え、更に自身の勝ってない距離を克服して逃げ切り勝ちを収めた。
なお、サンカルロスHの直後に生産所有者のハリー・グッゲンハイム大尉が死去したため、サンパスカルHからはアカデミー賞女優グリア・ガースンの夫という顔も持つ西海岸の実業家兼弁護士であるバディ・フォーゲルソンという人物の所有馬となっている。
閑話休題、3月の西海岸の大一番となるサンタアニタHに挑戦。距離は本馬にとって未知数の10ハロン、2000mである。
相手にはチリから転厩し、怒濤の追い込みを武器とするクーガーがいた。なおクーガーの鞍上もシューメイカーだったが、シューメイカーはアックアックを選択。斤量はアックアックが130ポンド(59kg)、クーガーが124ポンド(56.5kg)である。
レースではアックアックが快調に飛ばす。直線入口を先頭で迎えると後続を離して逃げ粘る。クーガーが怒濤の勢いで追い込んできたが、1馬身半差抑えて完封。未知の距離と斤量を克服した。
こうなると勢いは止まらん。次戦に5.5ハロン戦を3馬身離して快勝、さらに芝9ハロン(芝は2戦目)に挑んだところ130ポンドの斤量も馴れない芝もなんのその。1分47秒2というコースレコードで快勝。
7月に行われる西海岸の大レース、ハリウッド金杯へ出走。距離は10ハロン、斤量は134ポンド(61kg)という最重量ハンデで、他の出走馬とかと17ポンド(7kgくらい)のハンデ差があった。
どうするかって? 知れたことだ。逃げるんだよォ!
道中後続を6馬身突き放す逃げをうつ、基本的にハイペース上等でスタートからバリバリ飛ばすアメリカ競馬では馬群から5馬身離れれば大逃げの類いである。直線に入っても勢いは衰えず、2着コムタルに4馬身近い差を付けて圧勝。タイムの出やすい馬場であった事を鑑みても1分59秒8は好タイムである。
まだまだ活躍が見込めた本馬だったが、レース後に疝痛を発症。結果これが最後のレースとなった。
5歳時は8戦7勝、2着1回。
1971年に、これまで各雑誌や報道機関が選出していた年度表彰を統一する形で、エクリプス賞が誕生。
その栄誉ある初代年度代表馬、最優秀古牡馬、最優秀短距離馬の3部門に選出。流石に1戦だけでは最優秀芝牡馬は獲れなかったが、3部門受賞は最多タイである。そういった意味では、米国初の年度代表馬は本馬、アックアックであると言えよう。
歴史的名砲の遺伝子
通算成績27戦19勝、2着6回。着外も4着が2回というほぼ完璧に近い成績を有している。
本馬の卓越した点は、重ハンデを背負いつつも果敢にハナを奪い逃げ切るという、実にパワフルでアメリカンなスタイルにある。5.5ハロンから10ハロンまで器用にこなし、芝もダートも問わない。
種牡馬入り後は、米国独自の系統であるヒムヤー系の中興の祖とも言える活躍を収めた。代表産駒に仏ダービー馬ユースや、サンタアニタHを親子制覇したブロードブラッシュがいる。ヒムヤー系自体、衰退しそうになったら活躍する種牡馬が出てくる、不思議な系統である。ピーターパン系ェ……。
母の父としても優秀で、英ダービー馬ベニーザディップなどGI馬を5頭以上輩出した。
アックアックは日本でも割と馴染みがある。ブロードブラッシュの子、つまりアックアックの孫にはかのブロードアピールやノボトゥルーなど短距離ダートの名馬がおり、またサイレンススズカ、ラスカルスズカ兄弟の母親である*ワキアの母父が、本馬アックアックである。そこにミスワキと*サンデーサイレンスをつけたサイレンススズカは実にアメリカンな血統である。米国の芝走ってみて欲しかった。
現在直系は衰退傾向である。ブロードブラッシュが産駒の勝ち上がり8割以上とかいう奇っ怪な成績を残したが、その最良の産駒であるコンサーンが微妙だったのが辛い。あとアックアックは逃げ馬なのに直系子孫はどいつもこいつも後方からの馬ばっかりなのが不思議。コールドローンチ式かな?
アックアックは1986年にアメリカ殿堂馬に選出され、1990年に24歳で死亡。
1999年にブラッドホース誌が刊行した「20世紀のアメリカ名馬100選」において44位に選出された。
血統表
Battle Joined 1959 鹿毛 |
Armageddon 1949 鹿毛 |
Alsab | Good Goods |
Winds Chant | |||
Fighting Lady | Sir Gallahad | ||
Lady Nicotine | |||
Ethel Walker 1953 鹿毛 |
Revoked | Blue Larkspur | |
Gala Belle | |||
Ethel Terry | Reaping Reward | ||
Mary Terry | |||
Fast Turn 1959 鹿毛 FNo.9-h |
Turn-to 1951 鹿毛 |
Royal Charger | Nearco |
Sun Princess | |||
Source Sucree | Admiral Drake | ||
Lavendula | |||
Cherokee Rose 1951 鹿毛 |
Princequillo | Prince Rose | |
Cosquilla | |||
The Squaw | Sickle | ||
Minnewaska | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Sir Gallahad 4×5(9.38%)、Sickle 5×4(9.38%)、Plucky Liege 5×5(6.25%)、Pharos 5×5(6.25%)
主な産駒
- Youth (1973年産 牡 母 Gazala 母父 Dark Star)
- Ack's Secret (1976年産 牝 母 Escandinhas 母父 Birikil)
- Caline (1976年産 牝 母 Chamrousse 母父 Hillary)
- Flying Target (1977年産 牡 母 Dancing Cindy 母父 Nigromante)
- Joanie's Chief (1977年産 牡 母 Merry Madeleine 母父 Fleet Host)
- Rascal Lass (1982年産 牝 母 Mischievously 母父 Decidedly)
- Broad Brush (1983年産 牡 母 Hay Patcher 母父 Hoist the Flag)
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関連項目
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