ミュルグレス
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ミュルグレス[1]、ミュルグレ[2](MurgleysもしくはMurgleys、おそらく「死の剣」の意[3]) は、フランスの叙事詩『ローランの歌』の登場人物でフランク王シャルルマーニュの騎士であったが、後に反逆する宿敵ガヌロン伯の剣となる[3][4]。
フランス語(アングロ=ノルマン語)の原作によると、"黄金の柄頭(つかがしら)"[5]に聖遺物を仕込んでいる[6][9][11] 。
中高ドイツ語版『ローラントの歌』ではMulagirと呼ばれ、レーゲンスブルクに住むMadelgerという鍛冶師が鍛えた、フランス随一のショートソード[注 1]といわれる剣で、柄頭にはカーバンクルが付けられているが、その石は夜間になると明るく光り輝く。ネーム公が得て自領のバイエルンから持ち出しカルル大帝に献上したが、ゲネルン(Genelun=ガヌロン)が持ち去ったことで、サラセン人の側の軍に渡ってしまった[13][14]。
語源
[編集]『ローランの歌』の翻訳者ドロシー・L・セイヤーズは、剣の名前は「死の剣」を示唆しているとし[3](下記に示す、似た名前の剣参照)、ベルギーの学者リタ・ルジューヌは「ムーア人の剣」の意味であるとしている[15][16]。一方、ミシガン大学アラビア語文学のジェームズ·ベラミー名誉教授はアラビア語で「勇猛に穿つもの」を意味する「māriq ʾalyas」が語源だと主張している[17][18]。
似た名前の剣
[編集]Murglaieという名前の3振りの剣は、その他の武勲詩でも登場している。[19]
- 第一次十字軍にまつわる武勲詩白鳥の騎士に登場するエリアスの剣
- 十字軍に敵対したイスラム教のエルサレム王コルニュマランが所持し、ボードゥアン1世が手に入れた剣(武勲詩エルサレム王ボードゥアン1世の歴史)
- ハンプトンのビーヴェス卿の剣、モーグレイ(Morglay)としても良く知られている。
これらの語源は、フランス語のmorte(死)+グレイブ[20]で、セイヤーズの主張と一致する[3]。
注釈
[編集]出典
[編集]- 脚注
- ^ 有永訳 (1961)『ロランの歌』345, 607行のカナ表記
- ^ 佐藤輝夫『ローランの歌と平家物語』 2巻、中央公論社、1973年、45, 50頁 。
- ^ a b c d The Song of Roland. translated by Sayers, Dorothy L.. Hammondsworth, Middlesex, England: Penguin Books. (1957). p. 38. ISBN 0-14-044075-5
- ^ La Chanson de Roland, vv. 345, 607, Brault, Gerard J., ed (1978). The Song of Roland: Oxford text and English translation. Penn State Press. pp. 22–23, 38–39). ISBN 9780271038087
- ^ La Chanson de Roland, v. 466. 有永訳 (1961), p. 33
- ^ La Chanson de Roland, v. 607. 有永訳 (1961), p. 42:"剣ミュルグレスの聖遺物にかけて"。有永の466行巻末注では、柄頭について"この球状の金具の中に聖者の遺品、遺骨を納めて.."とあり、607行も参照、とあるので、ガヌロンの柄頭のなかに聖遺物があると示唆している。
- ^ Brault ed. tr. (1978), pp. 30, 31.
- ^ Beckmann, Gustav A. (2023). Onomastics of the “Chanson de Roland”: Or: Why Gaston Paris and Joseph Bédier Were Both Right. translated by Linda Archibald. Walter de Gruyter GmbH & Co KG. p. 541 and n1036. ISBN 9783110764468
- ^ ブロールト編・英訳では、466行目の原文"L'orie punt"を "golden hilt"(「柄」)と訳している[7]。しかし別の英文学術書を見ると「柄頭」と解されており、シャルルマーニュの剣ジョワユーズにも同じく"l'orie punt"があると2506行にあり、いずれも「柄頭」("pommel")としている。またシャルルマーニュ王の柄頭がギルディング(金箔)で、ガヌロンの柄頭が金無垢ということはなかろう、と意見している[8]。
- ^ a b Sholod, Barton (1963). Charlemagne in Spain: The Cultural Legacy of Roncesvalles. Librairie Droz. p. 188 and n288. ISBN 9782600034784
- ^ バートン・ショロッドの解説によれば:"キリスト教側の勇者はガヌロンを含め、聖なる刃を持っていた".[10]
- ^ Lexer, Matthias [in ドイツ語] (1876). "sahs". Mittelhochdeutsches handwörterbuch (ドイツ語). Vol. 2. Leipzig: S. Hirzel. p. 573.
langes messer, kurzes schwert
Woerterbuchnetz online - ^ Rolandslied vv. 1568–1609. Wesle, Carl, ed. (1986), Das Rolandslied des Pfaffen Konrad, 3tte Auflage besorgt von Peter Wapnewski (3 ed.), Tübingen: Max Niemeyer Verlag, pp. 80–83.
- ^ Rolandslied vv. 1585–8; Priest Konrad's Song of Roland, Columbia, S.C.: Camden House, (1994), pp. 12–13
- ^ mor (フランス語: maure「ムーア人」+glais (プロヴァンス語で "glaive, gladius"「グレイブ」「グラディウス」の意)。Lejeune (1950), (p. 163)、Scholod 引き[10]。
- ^ Lejeune, Rita (1950), “Les noms d'épées dans la Chanson de Roland”, Mélanges de linguistique et de littérature Romances, offerts à [[:en:Mario Roques|]], p. 163より英語で引用・要約:Bellamy (1987a), pp. 272–273, note 34
- ^ Bellamy, James A. (1987a), “Arabic names in the Chanson de Roland: Saracen Gods, Frankish swords, Roland horse, and the Olifant”, Journal of the American Oriental Society 197 (2): 273, doi:10.2307/602835, JSTOR 602835 , "The name of Ganelon's sword occurs twice in the Oxford MS, as Murglies (v. 346) and Murgleis (v. 607).. The original Arabic was most likely māriq ʾalyas, which means 'valiant piercer'"
- ^ Editorial Note, pp. 254–255, (JSTOR 45298606) to Bellamy, James A. (Winter 1987b), “A Note on Roland 609-10”, Olifant 12 (3/4): 247–254, doi:10.2307/602835, JSTOR 45298605
- ^ Langlois, Ernest, ed. (1904), Table des noms, Paris: Emile Bouillon
- ^ Bailey, Nathan (1731), An Universal Etymological English Dictionary
- 参照文献
- 有永弘人 訳『ロランの歌』岩波書店〈岩波文庫 赤501-1〉、1961年1月。ISBN 4-00-325011-7。