油断すると平和逃げていく 被爆者の心継承、若者らノーベル賞祝う会

核といのちを考える

柳川迅 編集委員・副島英樹
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 日本被団協ノーベル平和賞受賞が決まったことについて、代表委員で広島県被団協理事長の箕牧智之さん(82)が13日、広島市の広島平和記念公園原爆死没者慰霊碑に向かって報告をした。

 午前10時。箕牧さんはいずれも故人の森滝市郎さんや坪井直さんら県被団協の歴代理事長の名を呼んだ。続いて「34万人の慰霊碑の前に参りまして、ノーベル平和賞をいただくことになったことをご報告申し上げます」と述べて献花し、手を合わせた。

 報道陣の取材に箕牧さんは「森滝市郎先生は『核と人類は共存できない』という言葉を残した。坪井さんは『ネバーギブアップ』。私たちは核兵器廃絶をあきらめることはできない。道のりは厳しいが訴えていかないといけない」と話した。

 ウクライナや中東での紛争に触れた後、「79年前ここには八百屋や魚屋、散髪屋があり、原爆により熱線、爆風でみなが死んだ。これは実際に起きたことだ。ここ(平和記念公園)は平和を追求するところだ」と話した。(柳川迅)

被爆者は核使用の抑止力」

 箕牧さんと、もう一つの県被団協理事長の佐久間邦彦さん(79)はこの日、広島市中区のソーシャルブックカフェ「ハチドリ舎」を訪れた。被爆者や「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)のメンバー約20人が集まり、ケーキを囲んで受賞決定を祝った。

 佐久間さんは「活動が国際的に評価された。活動の枠を広げ、すべての被爆者団体が一緒になってがんばっていきたい」とあいさつした。

 15歳で被爆した広島市の切明(きりあけ)千枝子さん(94)はスピーチで「友達や身内をたくさん亡くし、生き残った後ろめたさ、つらさを感じてきた。でも、あの時の惨状を生き延びて伝えよ、と大きな力に生かされたのかと思う」と被爆証言を始めた理由を語った。その上で「平和は油断するとすぐにどこかに逃げてしまう。逃がさないようにしっかりと力を合わせて守っていきましょう」と話した。

 6歳で被爆した森川高明さん(85)は「被爆者は被害者じゃなくて(核使用の)抑止力になっている。被爆者一人ひとりの力が大きな力になって、今回の受賞につながったと確信している」と述べた。

 カクワカ広島の瀬戸麻由さん(33)は「この大きなノーベル平和賞受賞の前に小さな地道な、でもすごく大事なことの積み重ねがあったと思う。私自身も改めて気を引き締めて、みなさんの言葉をつないでいく場面を大事にしたい」と語った。

 オンライン参加した、カクワカ広島メンバーで早稲田大4年の高垣慶太さん(22)は「切明さんの『諦めてはいけない』という言葉をいつも思い出す。証言だけでなく、みなさんの力強い姿勢を継承していけるよう頑張っていきたい」と話した。

 箕牧さんからは「がんばれよ」と声が飛び、切明さんも「あなたたちに後を託しましたから、お願いしますよ」と話した。(柳川迅)

「核兵器使ってはならない」ゴルバチョフ財団など声明

 日本被団協のノーベル平和賞受賞決定を受け、広島で10月5日に「人間の安全保障フォーラム」を開いたNPO法人ANT-Hiroshimaやゴルバチョフ財団日本事務所などは13日、受賞決定への祝辞とともに、「戦争とテロを含むすべての暴力に反対する 核兵器は絶対に使ってはならない」との緊急アピール声明を発表した。

 声明では「今、中東やウクライナで、核兵器が再び使われるかもしれない緊迫した状況にあります。世界の市民が連帯して、この状況を食い止めるために、声をあげ、行動すべき時です」と呼びかけ、5日のフォーラムで採択された緊急アピールを再度発出することにした、としている。

 この声明には、「ノーベル平和賞受賞者サミット」や「金大中平和アカデミー」といった団体も名を連ねた。(編集委員・副島英樹)

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この記事を書いた人
副島英樹
編集委員|広島総局駐在
専門・関心分野
平和、核問題、国際政治、地方ニュース
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