魔法のクリエイターと言われる理由、お教えします

人は知る。人は感じる。創作で。

【プロット:ファンタジー】魔法薬を運ぶ薬草使い、不治の病に苦しむ王女を救うため、危険な森でしか採れない薬草を探す

 フレッドは、両手を茎にかけると腰を伸ばして力いっぱい引っ張り上げた。

「ギィイイ ───」

 マンドレイクの奴が、金属を引っ掻いたような不快な声を出して抵抗した。

 構わずに何本か抜くと、ヒソップの葉を刻んで浸した水に放り込んだ。

 こいつは、変身術を解いたり、回復や解毒にもなる万能薬の元である。

 マンドレイクの薬草ができ上ると、腰のポーチ一杯に詰めて街を出た。

 城門を出たところで、星の砂を足元に蒔いた。

 身体がフッと浮き上がり、目的地の世界樹の森までひとっ飛びだ。

 心臓病を患っている王女を救う薬の素を集めるために、危険な森に足を踏み入れる決心をしたフレッドは、拳をグッと握り直して歩き始めた。

 世界樹の葉を数枚詰んでから、守護神のドラゴンが現れるのを待った。

 果たして、数匹の龍が上空を舞い、口から炎を吐いて襲いかかってくる。

 武器を持たずに突っ立っているフレッドの右手には、アルラウネの涙を結晶させた石が握られていた。

 炎に身を焼かれながらもフレッドは薬草と復活の薬で身体を再生し続け、近づいてきたドラゴンに手を伸ばした。

 飛びつきざまに、奇跡をもたらすとされるドラゴンの鱗を一枚剥がし、しっかりと握ったまま地に倒れたのだった。

 体中が焼けただれたフレッドの上に、小さな妖精が舞い降りる。

 一部始終を見守っていた妖精は、彼の勇気と覚悟に感動の涙を流した。

 魔法薬の効果を高めるとされる、妖精の涙がフレッドの背中を濡らすと、眩い光が辺りを照らす。

 火傷が小さくなり、立ち上がれるようになったフレッドは街へと戻り、最後の力を振り絞って王女のために薬を調合した。

 王女は薬のお陰で元気になり、恩人のフレッド問う。

「なぜ、武器も防具も身につけず、危険な森に挑んだのですか」

 フレッドはポーチからマンドレイクの薬草を取り出すと傷口に塗りながら、

「それは、私が薬草屋だからです、王女様」

 お礼にと用意した財宝を断り、フレッドはまた、まだ見ぬ薬草を求めて野に降りて行くのだった。

【プロット】奇跡の書店月読堂

古書店「月読堂」は、鎌倉の閑静な住宅街にひっそりと佇んでいた。

店主の老人は、いつも静かに本を読み、訪れる客を温かく迎えてくれる。ある雨の日、僕は偶然この店に迷い込んだ。

店内には、古書特有の香りが漂い、無数の本が所狭しと並んでいた。

その光景に心を奪われ、時間を忘れて本棚を巡っていた。

ふと、一冊の本に目を留めた。

それは、革表紙の古い本で、タイトルは擦れた文字で「運命の書」とあった。

その本に不思議な魅力を感じ、手に取った。

ページを開くと、そこには、びっしりと手書きの文字が記されている。

まるで誰かの日記のようだった。

その内容に引き込まれ、読み進めていくうちに、不思議な感覚に襲われた。

日記には、僕自身の過去から現在、そして未来が書かれていたのだ。

まるで、この本が僕の運命を握っているかのように。

恐怖と好奇心に駆られ、一気に最後まで読み終えた。

そして、最後のページに書かれた言葉に、言葉を失った。

「この本を読んだあなたは、運命を変えることができます。

 しかし、代償にあなたの大切なものを失います。」

本を閉じ、店主の老人を見つめた。

老人は、静かに微笑みながら、僕に語りかけた。

「その本は、あなたにとって、運命の一冊となるでしょう。

 しかし、その運命を受け入れるかどうかは、あなた次第です」

僕は、しばらく悩んだ末、本を購入することに決めた。

そして、店を出て、雨上がりの街を歩きながら、本を開いた。

日記には、これから僕が経験するであろう出来事が、克明に記されていた。

その内容に驚きながらも、未来を変えるために、日記に書かれた通りに行動し始めた。

しかし、それは、大きな間違いだった。

日記に書かれた通りに行動するたびに、私は大切なものを失っていった。

友人との絆、恋人との愛情、そして、自分自身の夢。

絶望に打ちひしがれ、全てを諦めようとした。

その時、日記の最後のページに書かれた言葉を思い出した。

「運命を変えることができます。

 しかし、その代償は、あなたの大切なものを失うことです。」

私は、初めてその言葉の意味を理解した。

運命を変えるということは、同時に、何かを失うということなのだ。

日記を閉じ、海辺へと向かった。

そして、波打ち際で、日記を燃やした。

炎が、日記を包み込み、灰となって飛び、海へと流れていく。

僕は、空を見上げた。

雨上がりの空には、虹がかかっていた。

それは、まるで、新たな始まりを告げているかのようだった。

僕は、ゆっくりと歩き出した。

もう、日記に頼ることはない。

僕は、自分の力で、自分の運命を切り開いていく。

【プロット】羽根を失くした天使

 東京の喧騒から遠く離れた、静かな海辺の町。

 古びた教会の尖塔の上で、一人の天使が羽根を休めていた。

 彼の名は、アラクル。

 漆黒の羽根を持ち、堕天使と呼ばれるである。

 アラクルは、かつて天界で最も輝かしい天使の一人だった。

 しかし、彼は、人間を愛しすぎた罪で、天界を追放されたのだった。

 地上に堕ちた彼は、人間と共に生き、苦しみや悲しみを分かち合ってきた。

 ある日、アラクルは、海岸で一人の少女と出会う。

 少女は、莉子という名前で、重い病を患っていた。

 彼女は、生きる希望を失い、ただ静かに死を待っていた。

 アラクルは、莉子に優しく語りかける。

 彼は、自身の過去を語り、そして、人間を愛する心を伝える。

 莉子は、アラクルの言葉に心を打たれ、生きる希望を取り戻す。

莉子は、アラクルに、ある願いを託す。

 彼女の代わりに、世界中を旅して、人々の笑顔を集めてきてほしいというものだった。

 アラクルは、莉子の願いを叶えるため、旅に出ることを決意する。

 彼は、黒い羽根を広げ、世界中を飛び回る。

 旅の途中、アラクルは、様々な人々と出会う。

 貧困、差別、戦争…人々は、様々な苦しみを抱えていた。

 しかし、それでも、彼らは懸命に生きていた。

 アラクルは、人々の優しさ、強さ、そして、愛に触れる。

 彼は、人間を愛しすぎたことで天界を追放されたが、それでも、人間を信じ、愛することをやめない。

 アラクルは、旅の途中で、奇跡を起こす。

 彼は、病人を癒し、争いを止め、人々に希望を与える。

 彼の行動は、人々の心を動かし、世界中に広がっていく。

 そして、アラクルの噂は、天界にも届く。

 天界の長は、アラクルの行動を認め、彼を天界に呼び戻すことを決意する。

 アラクルは、天界に戻るべきか、地上に残るべきか、選択を迫られる。 莉子との約束を果たしたい。

 しかし、天界に戻れば、再び人間と関わることは許されないだろう。

 アラクルは、苦悩の末、地上に残ることを決意する。

 彼は、莉子の元に戻り、世界中で集めた笑顔を彼女に伝える。

 莉子は、アラクルの言葉に涙を流し、感謝の気持ちを伝える。

 そして、彼女は、静かに息を引き取った。

 アラクルは、莉子の死を悲しみながらも、彼女の笑顔を胸に、再び旅に出る。

 彼は、これからも人間と共に生き、彼らの笑顔を守るために戦い続けるだろう。

 数年後、アラクルは、再びあの教会の尖塔に立っていた。

 彼の羽根は、黒から白へと変わっていた。

 それは、彼が再び天界に受け入れられた証だった。

 しかし、アラクルの心は、今も人間と共にあった。

 彼は、地上を見下ろし、人々の笑顔を見守る。

 そして、静かに呟く。

「私はこれからも、人間を愛し続ける。

 たとえ、それが罪であっても」

 アラクルは、白い羽根を広げ、空へと舞い上がった。

 彼は、永遠に、人間を見守る天使となるだろう。

【小説】異世界への手紙を見つけた郵便局のフリーター、禁断の封印を解く

レゴラス・グリーンリーフ」こと、遠藤 誠は郵便カバンの中から洋封筒を取り出した。近所の通りには、大きく番地を書いた電柱と、縦書きの表札が規則正しく並ぶ。賃貸アパートの一角で、手元を見た誠は凍りついた。「何の冗談だ ───」呟いたきり視線は宛名に釘付けになる。「伝説の英雄 アレクシス・ブレイブハート様」とあったからだ。定職に就かずフリーターをしていた遠藤は、たまたま郵便配達をしていたのだが、始めるとプロ意識が出てきた。住所を間違っていたり、ヘタクソな字で読めないときでも、だいたいの当たりをつけて聞いて回り、届けなくては気が済まなくなっていたのだ。しかし、これは質の悪い冗談では、そう思った彼だが、次第に心の底から燃え上がる情熱に駆られたのだった。

 

 

 軽く地面を蹴って、滑らかにスクーターを発進させた|遠藤 誠《えんどう まこと》は、腰のあたりに下げたカバンを探った。

 ひょいと手紙の束を取り出すと、電柱の脇に止まって宛名を確かめた。

 電柱には「|帳塚《とばりづか》3丁目」と緑字に白抜きで書かれ、東京電力のマークも目に入った。

 毎日同じところを回っているから、確認しなくても分かるのだが、つい見てしまう。

 普段はあまり意識しない賃貸アパートが、近所にも意外と多くて、規則正しく|縦《たて》書きや横書きで表札が並ぶ。

 古臭いアパートの縦書き表札を見ながらポストに手紙を差し込んでいくと、一通の封筒を見て凍りついた。

「何だこれ、何の冗談だよ」

 思わず大きな声を出してしまった。

 宛名は「伝説の英雄 アレクシス・ブレイブハート様」とあった。

 何度も読み返して、目を|瞬《しばたた》いた。

 配達をしていると、すぐに家と苗字が頭に入る。

 記憶力に自信がなくても、家の特徴から人の営みを感じると頭にイメージが形作られる。

 そして、手紙の体裁や|頻度《ひんど》、差出人などから中身を大まかに予想できた。

 ある時は、あからさまなラブレターを手に取り、温もりを感じた。

 あらゆる可能性を頭をフル回転させて|模索《もさく》した。

 アルバイトとはいえ、今まで一度も配達を|諦《あきら》めたことはない。

 名前さえ書いてあれば、住所がなくても届けられる自負はあった。

 アレクシス・ブレイブハート、実在の人物なのだろうか。

 伝説の英雄とは、何を意味するのだろう。

 考えを巡らせ続けるうちに、頭に熱を帯びてきた。

 呼吸が早くなり、心臓が波打つパルスを全身に走らせ、皮膚を膨張させる。

 軽いめまいを感じて、バイクにもたれたとき身体がすっぽ抜けて落ちていく感覚に襲われる。

 |脂汗《あぶらあせ》が|額《ひたい》から|頬《ほお》へと伝い、|一滴《ひとしずく》落ちていった。

 ストンと何かに腰かける感覚と共に、暗い世界へと意識が消えていき、手紙を胸にギュッと抱きしめたままどこかへ落ちていくのだった。

 

 |霞《かすみ》がかったような意識の中で、響いてくる言葉を聞いた。

「我が名は竜騎士バルドル

 久しぶりに会う、勇気ある者よ、我の元へ|集《つど》え ───」

 目を開けたが、真っ暗で何も見えなかった。

「うむ、『レゴラス・グリーンリーフ』よ、お前にはこの棒を授けよう」

 頭に直接響くような、重々しい声と共に一本の古びた棒が右手に吸いつくように握りしめられた。

 手紙と棒を力いっぱい身体に押しつけ、ゆっくりと回転する感覚に襲われ、流れに身を任せた ───

 

「あの、大丈夫ですか」

 青臭い草と土のにおいを風が運び、|鼻腔《びくう》を突く。

 太陽の温もりが身体を軽くし、視界を明るくした。

 肩に手をかけた女が、力任せに引き起こしたのだ。

 ゆっくりと|瞼《まぶた》の|隙間《すきま》に光が差し込み、空の色を感じた。

 |唸《うな》るような声を出しながら、手にしっかり握っていた棒を杖代わりにして地面に突き、身を起こそうとした。

 その時、草むらから巨大なイノシシが飛び出したかと思うと、猛然とこちらへ向かって突進してくる。

 何が起こったのか判断する前に身体が動いた。

「フラーマ」

 謎の言葉を吐いた女の声が、若いな、などと思いながら突き出された自分の手には汚い棒一本しかなく、武器としては心もとない。

 次の瞬間、断末魔の悲鳴が耳をつんざき、黒焦げになったイノシシの巨体が地面に転がった。

 口をポカンと半開きにしたまま、女の方へ視線を移すと黒い布に身を包んだ小柄な姿がイノシシに近づいて行った。

「何をしたんだ」

 改めて見ると、体長3メートル以上はある巨大な黒い|塊《かたまり》と周囲の草むらが、凄まじい炎で焼かれたのだと分かった。

「私の魔法だけでは、こんなにならないはずだけどな」

 |怪訝《けげん》な顔を向けてきた女は、汚れた杖を凝視していた。

 

 杖を握った手には、脂汗が|滲《にじ》み女の視線がさらに身体を硬くさせた。

「これ、魔力で鍛えた杖なんですか」

 自分に対して質問を投げかけているようだが、口をパクパクして硬直した身体を何とか緩めないと手が|攣《つ》りそうだった。

「燃えた ───」

 3メートル以上の巨大イノシシが突進してきて、一瞬で黒焦げになって倒れる。

 そしてこの女は魔力がどうとか言って、汚い棒を見ている。

 ここは草原で、配達の途中だったはずの街は消えた。

 その時、|肋骨《ろっこつ》のすぐ下から、突き上げる|衝撃《しょうげき》を受けて小さく|呻《うめ》き、地面に丸くなって横倒しになった。

「ぼんやりしないでよね。

 また何か出るかも知れないんだから」

 右拳を腹の高さに突き出したまま、目をぎらつかせた女が吐き捨てた。

 もう一度、杖を地面に突き立てて身を起こすと、女が油断なく周囲に視線をやりながら言った。

「私はサキュバスリリス、あなたは ───」

「俺は、レゴラス・グリーンリーフ」

 一発食らって、頭のもやもやが晴れていた。

「この杖は、魔力を秘めているでしょう」

 硬い声でリリスが繰り返した。

 先ほどのような恐怖が身近に迫っているのだ。

 身体の毛穴から汗が滲み出る。

 ガサガサッと右手の草むらが|騒《ざわ》めくと、一歩|退《ひ》いて杖を向ける。

 呼吸音が風の音よりも大きくなり鼓動が、うるさいほど脈を打つ。

「もういないようね。

 イノシシは群れを作らないから」

 初めてリリスは、レゴラスの方へ身体を向けた。

「で、この杖は何よ」

 ついに怒気を込めて彼女は詰め寄ってきた。

 3歩後ずさりをして、右手に固く握ったままの棒を顔に近づける。

「『セレスティアルワンド』と、竜騎士バルドルが言っていた ───」

 何か、凄い力を秘めた杖を、伝説の竜騎士様がくださったのだと思っていたので、リリスの反応を待っていた。

 だが、鼻を鳴らして、

「ふうん、へえ」

 と言ったきり|踵《きびす》を返し、付いてくるよう手招きして、歩き始めたのだった。

 

 遠くに城のような影が見える方向へ、かなりの距離を歩いていくとはっきりと城門を視界に捉えるところまで行きついた。

 キョロキョロと見回し「へえ」などと言いながら、のけぞって城門の上の方を指さして「でっかいな」と目を輝かせて言うレゴラスに、大きなため息をついてリリスが言った。

「ここはエトランシア最大の街、テイシアだ。

 恥ずかしいからキョロキョロするな」

 城門に近づくと、身長の2倍ほどもある|槍《やり》を立てた衛兵が、

「見ない顔だな」

 ジロリと|睨《にら》みつけてきた。

 門の両脇に立っていた、2人の兵士が槍を交差させて行く手を|阻《はば》む。

「商人なら手形を見せろ。

 ないなら、ここへ来た目的を言え」

 足先から頭の先まで視線を|這《は》わせながら、身の|竦《すく》むような威圧感で押しつぶされそうになった。

 |咄嗟《とっさ》に、腰に下げていたカバンから一通の手紙を取り出した。

 「貸せ」とひったくるようにして手にした兵士は、|宛名《あてな》を読み上げる。

「なにい、『アレクシス・ブレイブハート様』だと ───」

 |怪訝《けげん》な顔で言うと、手紙を投げ返した。

「俺、私は郵便物を届ける仕事をしています。

 これを届けたらすぐに帰りますんで ───」

 ペコペコと小さく頭を下げながら、へへへっと笑い|愛想《あいそ》を使った。

 それが功を奏したのか、兵士も表情を崩し、

「まあ、怪しい奴ではなさそうだ。

 リリス、お前の知り合いか」

 と彼女に確認すると、槍を引いて戻って行った。

「助かったよ」

 笑顔を作ってみたものの、彼女は口をへの字にしたままだった。

「私も、あんたのことを知らない。

 街へ入るのに、独りだと何かと面倒だから合わせただけだ」

 首筋の辺りを|掻《か》きながら手紙をリリスにも見せた。

「これを『アレクシス』に渡すのか ───。

 手がかりはあるのか」

 |頭《かぶり》を振って、肩をすくめた。

 すると、のけ反るようにして、どっと笑った。

「面白い奴だな。

 その杖も、竜騎士も、良く分からないって顔してるところが気に入ったぞ」

 レゴラスの|眉間《みけん》を、指で差してこらえていた笑いが吹き出した、といった風に腹を押さえて身を丸めたまま肩をゆすった。

 そんな彼女を見て、今度は自分も|可笑《おか》しくなって笑ったのだった。

 

 まずは情報集めだ、と定番の酒場を探そうとすると、

「なぜ酒場なんかへ行くんだ」

 信じられない、という顔をしてリリスは広場に面した建物に入っていく。

 子どものころプレイしたRPGでは、酒場で情報集めをするのが当たり前だった。

 だがその程度の知識しかない、とも言えた。

 確かに、情報化社会では酒場に情報集めに行く者などいない。

 でもこの世界は ───

 大きな木戸を開けると、広間に|沢山《たくさん》の冒険者が集まっているようだった。

 どこかのゲームで見たような、魔法使いのローブや剣士の|鎧《よろい》、ファンタジーのコスプレかハロウィンパーティかと思うような光景だが、どれも本物なのだろう。

 高ぶる気持ちを必死に抑え、伝説の英雄・アレクシス・ブレイブハートのイメージに合う者がいないか目を皿のようにして一人一人目で追った。

「やあ、新入りかい。

 あんた、魔法使いかヒーラーってとこかな」

 振り向くと、大きな剣を|佩《は》いた女が微笑を浮かべてこちらへ近づいてきた。

「彼女はアリア・スターダストだ。

 大陸一の俊足と評判の、腕利きの剣士さ」

 リリスが耳打ちをする。

「俺は、この手紙の宛名の人物を探している」

 この世界の雰囲気に慣れてきたレゴラスは、努めて|大仰《おおぎょう》な態度で言った。

「伝説の英雄だって、そんな奴いくらでもいるさ。

 自称英雄ばっかりが集まって、|屯《たむろ》しているようなところだからな」

 ふんと鼻を鳴らして、レゴラスの顔つき、身体の筋肉と立ち居振る舞いを鋭い視線で見極めようとしているようだった。

「で、リリスは私ともう一度旅する気になったかい」

 口元に拳を当て、思案顔のまま黒いローブのサキュバスに顔を向けた。

「ふふ、こいつは面白いことになりそうだな。

 竜騎士バルドルからセレスティアルワンドを授けられた冒険者と、腕利きの剣士、そして夢魔である私か ───」

「もしかして、今度は本気で伝説の英雄を追うつもりか」

 アリアの問いには答えず、リリスは壁際に寄りかかって書類の束を読んでいる男の方へ歩いていく。

 口元の笑みが、出逢った2人の冒険者との共感の光を心に灯したように感じたのだった。

 

 尖った耳と切れ長の目をした男は、リリスに気づくと書類から視線を上げた。

「やあ、オベロン・キング・オブ・フェアリーズ」

 小さくため息をついて、レゴラスを認めると言った。

「こちらは、いや、ええと ───」

 進み出て自己紹介しようとしたが、リリスが手で制した。

「フェアリーとエルフの血を受け継いでいる。

 長く生きているし、人脈が広い。

 森の情報通で、彼に聞けば手がかりを知っているかも ───」

 しきりに|唸《うな》って、床を睨みつけていたオベロンが口を開いた。

「あなたは、明確な目的を持ってここへ来ましたね」

 カバンの中から例の手紙を取り出して言った。

「郵便配達をしていたら、これを見つけて届けに来た。

 いつの間にか、リリスとアリアの仲間みたいになっているけど、これをアレクシスに渡したら帰るつもりだ」

「なるほど、だからパッと見ても分からなかったのですね」

「どういうことだ」

 リリスが聞き返す。

「この人は、途方もない彼方からやって来たのです。

 そして、アレクシスに会うですって、やめた方が良い」

 大きく|頭《かぶり》を振った。

「知ってるのか、会わない方がいいって、なぜなんだ」

 レゴラスの鼻息がかかるほど詰め寄る。

「やっぱり、あのアレクシスなのか ───」

 アリアが顔を|顰《しか》めた。

 アレクシスは、ロダニア山へ何度も|赴《おもむ》き強力なモンスターを次々になぎ倒し、伝説の英雄達を助け、自らも魔導師と剣術士ギルドマスターを務めたほどの実力者だった。

 しかし、激しい気性から、冒険者たちとの折り合いが悪く、度々|喧嘩《けんか》をして出て行ってしまったのだ。

 人間に対しても平気で|禁忌《きんき》を破って魔法を使い、気に入らなければ殺す。

 街に出ては武器や食料を奪い、抵抗すれば魔法で|脅《おど》す。

 残忍で自己中心的だという評判だった。

「探すと言っても、どこに行けば会えるかさっぱり分からないな」

「そうでもありませんよ」

 窓の外へ視線を外したオベロンは|呟《つぶや》いた。

「森がきっと、運命の糸を|手繰《たぐ》り寄せます。

 この手紙には、強い念が込められていますから ───」

 

 テイシア城の最上階からは、遠くの山々が青く|霞《かす》む。

 人払いをした執務室には、2人の男が立っていた。

 外を眺めていたのは白髪の老人だが、両眼には赤々と燃える光を|湛《たた》え、ギラリと|見据《みす》える威圧感は心の臓を|鷲掴《わしづか》みにするような迫力だった。

「国王、ライオス様、例の手紙を、|誠《まこと》の心を持つ者へ、セレスティアルワンドと共に|託《たくす》しました」

バルドルよ、アレクシス・ブレイブハートは、今どこにいるのだ。

 やはり、ワシ|自《みずか》らが出向いた方が ───」

 腰の宝剣を|刷《はだ》いた手を止め、|柄《つか》にかけた。

 かつて最強の勇者と呼ばれ、伝説の幻獣たちとも渡り合ったライオスならば、単独で出向いても良いのかも知れない。

 実際、大型モンスターが|闊歩《かっぽ》するロダニア地方へ、ふらりと出掛けて行ってしまっていた。

 ため息をつき、身を案ずるというよりも、いつもの決まり文句を|抑揚《よくよう》なく繰り返すのだった。

「国王陛下が激戦区に出向けば、敵の的になりますぞ。

 作戦|遂行《すいこう》の妨げになるばかりか、軍の統制を乱しかねません」

 今度はライオスがため息を吐いて肩をすくめた。

「アレクシスは良い戦士じゃ。

 だが誤解をされやすい性格が|禍《わざわい》して、単独で戦っておる。

 『武』に純粋すぎるのだ ───」

 |物憂《ものう》げな言葉とは裏腹に、口元には笑みを浮かべていた。

「さすがのワシも、そろそろお迎えがくる歳だ」

 ふっと、目に湛えた怒気を消し、影が差した老王は椅子に腰かけるとバルドルにも勧めた。

「そんな弱気を|仰《おっしゃ》っては ───」

 テーブルに置かれた剣の宝玉には、燃えたぎる炎がゆらめいている。

 火の属性を極め、最高レベルの魔力と俊足、そして|膂力《りょりょく》を持って振るえばたちまちすべてを|灰燼《かいじん》に帰す。

 この世で最も強い戦士は、魔法を極めた魔導師でも、肉体を極限まで鍛えた剣術士でもなく、魔力で鍛えた武器を|携《たずさ》えた、すべてのバランスを体現した戦士なのである。

「アレクシスは、乱世そのものだ。

 時代を駆け抜けるために生まれ、散っていくのではないかと心配でな ───」

「国王陛下、この地上には伝説の勇者ライオスに匹敵する者などおりません。

 ですが、若い者たちの成長を信じてください」

 

 テイシアを出てから、3人のパーティは|襲《おそ》い掛かるモンスターを斬り、焼き、無傷でロダニアの森へ|辿《たど》り着いていた。

 腰のカバンに目をやると、手紙を渡す責務を果たすために、|随分《ずいぶん》遠くまで来たものだとしみじみしていた。

「今度は大物だ、私が一太刀浴びせたら焼き殺せ」

 アリアが自慢の足で敵の|懐《ふところ》に飛び込み、リリスの魔法で畳みかける。

 必勝パターンができ上っていた。

 だが、想定外の展開が起こる。

 背丈が人間の2倍ほどあるトロルは、手にした|棍棒《こんぼう》で足元をガードして守勢一辺倒の作戦を取ってきたのだ。

 勢い余って棍棒に剣を突き刺してしまったアリアが、宙高く放り投げられ、地面に叩きつけられ気絶した。

「アリア!」

 レゴラスは駆け寄ろうとしたがトロルの棍棒の方が速い。

「フラーマ!」

 |渾身《こんしん》の力で火球を飛ばすが、それも棍棒で弾き飛ばす。

 レゴラスは我を忘れ、セレスティアルワンドを投げつけようと振りかぶった。

 その時 ───

 全身が硬直して動けなくなった。

「よお、お前、その棒きれをどこで拾った。

 てか、投げてどうすんだよ、バカかお前。

 ほれ、ほれ、俺に貸してみろ。

 てめえみたいなバカが握ってちゃあ、秘めた力を出す前に叩き折られちまうぞ」

 突如背後に現れた男は、セレスティアルワンドを取り上げると、片手でリリスのローブを掴み、ブンブン振り回してからトロルめがけて投げつけた。

 悲鳴を上げて一直線に飛んでいく彼女は、涙を流し顔をくしゃくしゃにしてもがいた。

「はあ、みっともねえパーティだな。

 ほんじゃあ、軽くいってみるか」

 片足をスッと前に擦り出したかと思うと、棒を一振りして小声で何かを|呟《つぶや》いた。

 凄まじい火柱がトロルの足元から立ち上り、一瞬、断末魔の悲鳴を聞いたきり、炎がゴウゴウと上っていく軌跡と一緒に黒い塊と化し、粉々に灰が散って消えた ───

 

 謎の男はセレスティアルワンドをレゴリスの手に握らせると、射るような目を向けた。

「おい、か弱い女2人を守れない、もっとか弱い虫けら君よお。

 何か、裏があるな。

 このアレクシス・ブレイブハートに話してみな」

 燃えるような|蓬髪《ほうはつ》をなびかせ、獣のようにしなやかな|体捌《たいさば》きでにじり寄ってくる。

「殺される ───」

 遠くで伸びている2人の女戦士の方へ視線をやると、心細さが手足の力を奪い、腰が抜けて座り込んでしまった。

 震える手で郵便カバンをゆっくりと開け、手を差し入れるが、他人の手のように硬直して震え、指が思うように物を|掴《つか》んでくれなかった。

「今、アレクシス・ブレイブハートと ───」

 かすれた声を絞り出し、涙ぐむ目で男を見上げる。

「ん、何か他にも ───」

 カバンに手を無造作に差し入れた男は、一通の手紙を取り出して|摘《つ》まみ上げた。

「何だこりゃあ、字が書いてあるな。

 お前、読んでみろ」

 ふんと鼻を鳴らしてドカリと腰を下ろし、あぐらをかいて腕組みをして目を閉じた。

 手紙の封を切ると、レゴラスは心を奮い立たせて読み始めた。

 黙って聞いていた男は、大きく一つ|頷《うなづ》き、レゴラスに手を差しだした。

「俺の名は、さっき言ったな。

 ライオスのオヤジが言うんじゃあ、お前さんも選ばれた戦士ってわけだ。

 何があるのか知らねえが、せいぜい死なねえように守ってやるぜ」

 手紙を読み終えると、魔力の炎に包まれ|塵《ちり》になって飛んでいった。

「一緒に来い。

 足手まといだが、連れてってやるぜ」

「あの、どちらへ」

「決まってんだろうが、ロダニア山の向こうへ行って、ドラゴンの親玉をシメてやるのさ」

 2人の女戦士は、ようやく気がついたのか身を起こし、こちらを見て後ずさりをした。

 振り返ると遠くにテイシアの平原が広がっている。

 これからどんな冒険が待ち受けているのか。

 青く霞む山々は、試練の先にまた試練をもたらすのだろうか。

 

 バイクにもたれかかっていた誠は、暖かい日差しを受けてぼんやりと薄目を開けた。

 時々路地を通る車の音が通り過ぎ、|雀《すずめ》の鳴き声が耳をくすぐる。

 軽く目頭を押さえると、握っていた手紙の宛先を確かめる。

「山田 実様、と」

 マンションの集合ポストへ手紙を次々に差し入れていく。

「しかし、変な夢を見たな ───」

 手足に|疼《うず》く痛みに|呻《うめ》き、腰のあたりを|擦《さす》って、またバイクにまたがった。

 スロットルに手をかけた|刹那《せつな》、手紙の宛名に視線を落として手を止めた。

「何だこれは、『レゴラス・グリーンリーフ様』だって ───」

 

 

この物語はフィクションです

 

【小説】ガラクⅤ 雨上がりの蒼穹

ラクはある日突然、自分が殺し屋と軍人の娘であることを知る。そして自らの身体にも、戦いのサラブレッドとしての血が流れていた。両親の師匠にして親代わりでもあるレックスの紹介で、民間軍事会社ガルーサ社で軍人としての第一歩を踏み出す。そこで待っていたのは、死んだと言われていた母ゼツだった。最新鋭の戦闘機でやってきた母に連れられて、中東のアルバラ共和国パルミラ基地を目指す。基地を目前にしてパルミラの手練れに囲まれるが、父ラルフと仲間の機転で切り抜けることができた。懐の深い司令官クリスは、ゼツとガラク、ラルフに給油を許した。山岳基地パルミラに降り立ったガラクとゼツ。突然襲ってきたスパイ狩りを退けた後、彼女たちを待ち受けていたのは頼りになる、あの老人だった。

 

 

「しかし、お前さんも損な役回りだな」

 白髪頭を掻きむしりながら、ハーティ・ホイルが人懐っこい笑みを浮かべた。

「ナセルとは、殺し合う理由がない。

 成り行きで敵同士になってしまっただけさ ───」

 窓の外には黒くそそり立つ山が連なり、先ほどから降り始めたにわか雨が視界を濡らしていた。

「ほれ、砂漠も悲しいとさ。

 天気ってやつは、意外と人間の心を写しているものさ」

「確かに、今日は湿っぽくなる気分かも知れないな」

 計器の上に手を突いて、クリスは黒い雲に覆われた空をぼんやりと見上げる。

 灼熱の砂が広がる平地と、荒々しく尖った岩肌は、人を寄せ付けない|過酷《かこく》なアルバラという風土がもたらす風景である。

 そして泥沼化する紛争が、大きくなり続けて今に至る。

 戦争が起これば武器を売り込みに商人がやって来て、敵味方関係なく金さえ払えば武器を売る。

 つまり、金が尽きた方が負けるのが、現代の戦争である。

 個人の信念よりも、最新の武器に、とりわけこの地では戦闘機を手に入れなくてはならない。

 その戦闘機を手足のように操るパイロットも|勿論《もちろん》である。

「政府軍も、反政府軍も、ドッグファイトにおいては外人部隊の敵ではない。

 ほとんど七面鳥撃ちだ」

「そいつは、死線をくぐったエトランゼの連中が特別なのさ」

 頭を抱えてクリスはハーティに背を向けた。

「俺は、時々恐ろしくなる。

 自分が、ただの|殺戮《さつりく》をしているのではないかと ───」

「ワシも同じさ。

 武器を売っていれば、戦争を大きくしているようなものだ。

 そろそろ潮時だと思っている。

 お前さんのように、自分の行く末を本気で考える人間が近頃増えてきた。

 お陰で、ワシも自己嫌悪に駆られるようになってな」

 ツカツカとドアに向かって歩いて行くと、老人は背中を向けたまま言った。

「国を捨て、信念を捨て、家族を捨て、人生を捨て、未来を捨て、魂を捨てても残った物がある」

「それは、何だ ───」

「『男の尊厳』だよ」

 

 ホーネットのダークグレーの翼が、地上の目標を捉えようとしていた。

 山岳地帯へギリギリの高度で侵入すると、地上からは視認しづらくなる。

 平地へ出る瞬間、地対空ミサイルが雨あられと襲いかかってきた。

 センサーが反応し、けたたましい音と共に視界が赤く囲われる。

 機体をロールさせながら、真っ直ぐに斬り込む。

「ビービーうるせえ。

 ミサイルが来てるのは分かってるんだ。

 |喚《わめ》くんじゃねえ」

 |操縦桿《そうじゅうかん》をわずかに引き、爆弾を投下すると同時に戦車へ20ミリバルカン砲の雨を浴びせる。

「戦車がウジャウジャ居やがる。

 もう一回積んで出直すぞ」

「おい、ラルフ。

 あまり入れ込むなよ。

 ミッションはほぼ達成した」

 上空を旋回して、敵戦闘機を|威嚇《いかく》していたホワイトの声だった。

 装甲車の群れを攻撃し、正規軍の補給路を断つ目的はほぼ|完遂《かんすい》していた。

 後方の砂漠から、石油が燃える黒い煙を確認すると、ふうと一つ息をついた。

「それもそうだな。

 全機、帰投する。

 燃料が少ない者から先に行け」

 ラルフは2機を引きつれて、また低空飛行でアル・サドンを目指した。

 陽が沈みかけ、雨雲が砂漠に暗い影を落とす。

「荒れそうだ。

 雲の上に出ろ」

 ホワイトの指示に従って、3機は暗い塊を突き抜けていく。

 真っ暗な視界から高度計に視線を移すと、3000メートル程の高さで雲の上に出た。

 ウソのようにカラッと陽が差して沈む太陽を認めた。

「また雨か。

 ラルフが来てから、増えた気がするな」

 ふと、ラルフの脳裏に娘の顔が浮かんだ。

 そして胸騒ぎが、呼吸を苦しくさせた。

「中東の先輩として言わせてもらうが、感情的になるなよ。

 任務を冷静に遂行していれば、生き残って地上へ降りられる。

 お前には家族がいるのだから、無駄死にはするな」

 ホワイトの声は、珍しくトーンダウンしていた。

「ホワイト、お前こそ他人の心配とは、ヤキが回ったんじゃないのか」

 4機は横に並び、渡り鳥のように上になり、下になり、風に身を任せるように揺らいでバーナーの尾を引いて行ったのだった。

 

 ライトニングⅡを納めたハンガーに戻ったゼツは、木箱の山の隅に腰を下ろした。

 後ろに束ねた髪をほぐし、もう一度縛り直すと、ガラクの方に視線を向けた。

「どうしたんだい。

 そう気を張っていちゃあ、いざって時息切れするぞ」

「お母さんこそ敵地の真ん中で、髪を結び直してる場合なの」

 油断なく倉庫の隅々まで見回し、突っ立っている娘の姿が|可笑《おか》しくなってゼツは吹き出した。

「あははは、違いないな。

 お前の方が正しいよ、きっと」

 すっくと立ち上がると、一緒になってキョロキョロ見回して、また笑い出す。

「私のこと、バカにしてるわね」

 |頬《ほお》を少し|膨《ふく》らませて、口を尖らせた。

「恐怖も緊張も、生き残るために必要な感情だよ。

 私だって、家でのんびりしているときと一緒じゃないさ」

 脇に仕込んでいたベレッタを抜き、何かを確かめるように眺めたまま母の目尻がわずかに引き|攣《つ》るのを認めた。

「何」

 背後で何かが動いた。

 全身の毛穴が開き、髪がふわりと浮く感覚と、足元がどっしり地面に食いつく感覚。

 ファリーゼで銃撃戦を初めて見て、死を直感した時と同じだった。

 ゆっくりと身体を|捻《ひね》り、視界に捉えたのは美しいブロンドの長髪でスラリとしたファッションモデルのような若い娘の姿だった。

「あんたたちは、正義の女神アストライアか」

 銃をホルスターに収め、足で地面を|擦《す》るように、滑らかな足取りで近づいてくる。

「あ ───」

 彼女の挙動には無駄がなかった。

 |隙《すき》のない身体には、心を素手で|掴《つか》まれるような重い|威厳《いげん》が備わっていた。

「わ、私はガラクよ。

 母のゼツは強いけど、私はからきしでね」

「私の名前はナット・ジェナー。

 この状況では、こっちが死に|体《たい》なんだけどな ───」

 喋りながら徐々に口元が緩み、ついに腹を抱えて笑い始めた。

「ガラク、私はちょいと大人の用事をしてくるから遊んでおいで」

 優しく娘を|愛《いと》おしむような|双眸《そうぼう》に、ジェナーは軽く会釈してガラクを引っ張って奥へと消えていった。

 

 アルバラ共和国空軍基地である、アル・サドンは元々中立的な立場だったが戦況が|芳《かんば》しくない反政府軍を支援する外人部隊になった。

 総司令官のナセルは政府軍外人部隊にいるクリスと旧知の中であり、戦友でもある。

 物静かで闘志を内に秘めるタイプだが、愛機クフィルのコックピットに収まれば、軍神マルスと見紛うばかりの勇敢さと、虎をも射殺す|獰猛《どうもう》さを|露《あら》わにする。

「ホワイト、塩取ってくれんか」

「ほい、投げますよ」

 ほぼ直線を描いて飛んだ味塩が、ひょいと上げた右手に乾いた音と共に収まった。

「ほれ、お前も使え、アリー」

 戦闘機乗りとして、超一流の腕前を誇る3人は、何度も共に死線をくぐった仲間と言って良かった。

 簡易食堂のトレーを並べて ゆで卵 とカレー、サラダとスープを口に運ぶ姿に階級差は感じられない。

「最近のラルフの活躍は、神がかっているな」

 他人事のように、アリーが言った。

「この前は『戦車がウジャウジャいやがるぜ』なんて言って、もう一度出ようとしたが基地に帰らせたんだ」

「ほう、娘には会えたのだろう」

「そのようですが、妙に張り切っていて少々心配です」

 スプーンを止めたナセルは、思案顔で遠くの壁を眺めていた。

「彼は、根っからの軍人ではないと思います」

 ホワイトも手を止めた。

「と言うと ───」

「我々よりも、遥か未来を|見据《みす》えて生きている。

 そんな感じがするのです」

 カチャリと食器を乗せたトレーを持ち上げたアリーは、ホワイトの言葉を聞いて表情を引きしめた。

「我々に、未来はあると思うか」

「いいえ、未来を捨てた人間が叫び、踊るために集まるのが戦場というものです」

「違いないな。

 作戦会議の前に、奴のホーネットのガンカメラを確認しただろう。

 どう思った」

「正直、敵には回したくないですね。

 挙動に理解不能なニュアンスを織り交ぜて、最短距離で敵に向かい正確無比の攻撃をしていました」

アル・サドンの元ナンバーワンであるアリーも舌を巻くか ───」

 そんな話をしながら、3人は管制塔へと引き上げて行った。

 

 敵の基地に潜入しているというのに、娘は若い友人でも見つけたかのように共に笑った。

 そしてゼツ自身も、自分に向けた殺気がほとんど感じられないことに違和感を感じていた。

アル・サドンのゼツ・ノエル・オリベールです」

 管制塔まで来るようにと、整備兵に言われてやって来たが、ドアは開け放たれて、廊下をジョギングしていた兵士も|一瞥《いちべつ》しただけで走り去って行った。

 レーダーを見ていたクリスが振り向くと、握手を求めてきた。

「司令官のクリスティ・ドゥイ・ブロトン大佐だ。

 あなたに撃たれたファリド・ハッサンは、故郷のアラブに送ったよ。

 鮮やかな手際だな。

 正規軍には『スパイなど、くそくらえだ』と打っておいたぞ」

 両手を小さく上げて、降参した、というポーズを取りながら言った。

「戦闘機ではお宅の若い兵士に撃ち落とされそうになったがね。

 地上に降りれば私の土俵だよ」

「ガルーサ社の大佐だそうだな。

 うちにも何人か来ている。

 まあ、外人部隊の人間関係は複雑だ」

 外に目をやると、陽は沈み、雨粒が窓ガラスを伝って流れていた。

「ナセル指令から、クリス指令によろしくと言われてね」

 やや厚底の靴を手で取り上げると、|踵《かかと》の部分から小さなチップを取り出した。

「これは ───」

「パスワードは『ガラク』、私の娘の名だ」

 コンピュータでデータを開いたクリスは、頬に拳を当てて|唸《うな》った。

「そういうことだ。

 総力戦に備えて、お互いに無益な血を流さないための措置だと思って欲しい」

 収められていたのは、最後の決戦になったときに基地を捨て、正規軍を切り抜けて再起を図るための飛行ルートと、落ち合うポイント、そして使用する暗号などだった。

「やはり、ナセルも感じているか」

 正規軍には、最後まで守り抜く国がある。

 だが、外人部隊は寄せ集めの雇われた兵士である。

 敵味方に分かれているからと言って、崩壊しようとしている国のために死ぬ理由はない。

 まして、ナセルもクリスも旧知の仲である。

「内通を知ってしまった者は、始末されるのが世の常だが ───」

 シールドという、ポピュラーな拳銃を腰にピッタリ押し付けたまま、銃口をゼツに向けた。

「まあ、|流石《さすが》にそう来るだろうな」

 両手を上げて、目を伏せたゼツはクリスの言葉を待った。

 だが何も言わず、銃をホルスターに収めてクリスも窓ガラスの雨粒に視線を移した。

「ホーネットのパイロットだが」

「ああ、私の夫、ラルフのことかい」

 雨粒の向こうには、底知れぬ闇が広がっていた。

「奴は、死ぬかもしれないぞ」

 

 ジェナーと肩を並べて談笑して歩くガラクは、|傍目《はため》には友達同士でお喋りを楽しむ若者に見えた。

「へえ、じゃあ軍隊に入ってからまともな訓練も受けずに、ここに来たってわけ」

「そうなの。

 銃の扱い方だけはレックスに教わったのだけれど、実戦で敵を撃つには足りないものが、まだまだ|沢山《たくさん》あるわ」

 その時、背後に積まれた木箱の山の影から、誰かが近づいてきた。

 身を隠すでもなく、堂々として足音を高く響かせながら。

「ライトニングⅡに乗っていた、若い方の女か」

 ため息をついて肩をすくめた。

「あなた、盗み聞きしてたのね」

「当たり前だろう、敵の兵士と、こんなに目立つところで話をしていて、何事かと思って聞いていたんだ。

 クリストファー・キンバリーだ。

 昼間あんたのライトニングⅡに狙いをつけて警告したのは俺さ」

 目つきが鋭くて、気後れするほど威圧感があった。

 だが顔つきは丸みがあり、幼さが残っている。

「それで、なぜ外人部隊に来たの」

 ガラクを2人の視線が射貫いた。

 改めて問われると、理由が分からない。

 ポカンと口をパクパクしたまま、周囲をキョロキョロと見回すだけだった。

 ジェナーはまた、どっと腹を抱えて笑いだした。

「ほら、おもしろいお嬢さんでしょう。

 出来の悪いコントみたい」

 指を指してゲラゲラ笑う彼女を見て、ガラクも|可笑《おか》しくなった。

 そしてキンバリーも口角を引き|攣《つ》らせて、クククッと笑い始めた。

「ここは地獄の激戦区だぜ。

 明日をも知れぬエトランゼに、良く分からずに来てしまったみたいな顔してやがるぜ。

 本気かよ」

 こらえきれなくなって、3人は高らかに声を上げ、天を仰いで大口を開けて笑った。

 チェコやスペインのファリーゼ、パリでの出来事がガラクの口を突いて出た。

 家を出てから、|怒涛《どとう》のように自分の身に起こった理不尽とも言える運命を、他人に話したのは初めてだった。

 ずっと、だれかに聞いてもらいたい気持ちでいっぱいだった。

 もしも、戦場以外でこの話をしたら、信用してもらえないかも知れない。

 それほど現実離れした運命だった。

 突然消息を断った両親と、再会したばかりで、その場所は敵地のど真ん中で、生きているのが不思議だなどと言うと、また笑いが込み上げて肩をゆすった。

 キンバリーはガラクと同じ20歳だった。

 なのに軍人としては遥かに経験を積んだ先輩だった。

 ひとしきり話して、気を許したのか彼が言った。

「実はアル・サドンの兵士がうちの基地でうろついていても手を出すなと命令があったんだ。

 敵同士のはずなのに、おかしな話だが、外人部隊の人間は様々な顔を持っている」

「どういうこと」

「例えばお前が入ったガルーサ社から、うちにも派遣されているのさ」

「そうさ、戦争ってやつは色んな顔がある。

 影には沢山の陰謀が巡らされていることもある ───」

 白髪の小柄な老人が、後ろ手に組んで木箱の上から見下ろしていた。

 

 艦載機乗りとして、アメリカ空軍でも屈指の腕前を誇るケイ・ホワイトは、ハーティ|爺《じい》さんが持って来たスーパートムキャットの性能を確かめながら小隊の前で喋りまくっていた。

「おい、見たか。

 アフターバーナーなしで編隊に遅れず付いて行けるぞ」

 旧世代の代表格だったトムキャットを改良して、ステルス性能と新型エンジンを搭載したモデルをアメリカが秘密裏に開発していた機体は、途中で放り出されていた。

 残っていた設計図を元に、部品をかき集めて試験機を、こしらえて来たのだった。

 主翼が大きく開くと、他の機体を圧倒する迫力がある。

 この可変翼と、火器管制能力の高さが魅力で、翼の動きから「猫」の耳のようだとか、偵察能力の高さから「ピーピングトム(覗き屋)」のトムなどと言われることもある。

 低空飛行するラルフとアリーの小隊を見下ろし、今回も上空制圧をホワイトが任されていた。

「おいでなすったぜ。

 今日のエースはどちらか、競争だ、アリー」

 ヘルメットの中で軽く舌を出し、唇を湿らせると|操縦桿《そうじゅうかん》を引きながらアフターバーナーに火を入れたラルフは、山なりの軌道を描きながら敵編隊の中心めがけて飛び込んだ。

「ちょっと待て、様子がおかしいぞ」

 そこまで言ってアリーは、背筋に悪寒が走った。

 何かいつもと違う。

 ライトニングや、ハリアーのような小回りが利く機体で構成された敵編隊は、何かを狙っているような予感をさせた。

「一度やり過ごして様子を見ろ、ラルフ」

 ホワイトは叫んだ。

「細かいのが揃ったって、乗り手が素人じゃあ話にならんのさ」

 耳を貸さずにラルフは正面から突っ込んでいった。

 立て続けに発射したミサイルを、小刻みな動きで山間に誘導しながら|躱《かわ》して山服に衝突させてやり過ごす者がいた。

 そのまま機影は山の中に消えてしまった。

「ちくしょう、どこへ行きやがった」

「しまった、上だ、ラルフ」

 ふわりと大きく浮き上がったハリアーが後方上からバルカン砲の帯をホーネットに浴びせかける。

 その時、さらに上方からスーパートムキャットが躍りかかり、敵のコックピットを射貫いた。

 滑走路に向かうホーネットのエンジンから、黒い煙が長く伸びる。

 待機していた消防車が消火剤を浴びせ、コックピットからラルフを引きずり出した。

 頭部に傷を負い、ヘルメットの中に血が溜まっていた。

「へへ、ヘマやっちまったぜ。

 バルカン砲の弾が|掠《かす》めやがって、このザマだ。

 神様に、チョーシこくなと叱られたな。

 ホワイト、恩に着る」

「いいから、もう喋るな」

 ストレッチャーに括り付けられた彼は、力なく笑った。

 

 管制塔で椅子に腰かけたまま、ぼんやりとレーダーを眺めていたクリスは無線の音で我に返った。

「ジェナーです、ガラクと共に演習飛行をしたい。

 離陸許可を ───」

 少し驚いたが、若者同士、そして激しい戦闘に明け暮れる外人部隊では少ない女兵士だ。

 多くは聞かなかった。

 窓の下に、ハンガーから離れて行くライトニングⅡを認めると、飛行ルートを確認した。

 当直の管制官がやって来ても、クリスは持ち場を離れようとしなかった。

「どうか、若い世代が、このアルバラに、|碧空《あおぞら》を取り戻してくれる日が来ることを。

 血に|濡《ぬ》れた大地に眠る魂を、|慰《なぐさ》める日が来ることを」

 |呟《つぶや》く声に反応して続いた。

「司令、何か言いましたか ───」

 レーダーの前を管制官に譲ると、重くなった身体を椅子に沈めて|頬杖《ほおづえ》を突いた。

 滑走せずに空へ上がる光を追っていた目に、アフターバーナーの|眩《まばゆ》い|輝《かがや》きが映ると、遥か空の彼方を目指して消えて行った。

 そうだ、足踏みしていても兵士たちは死地へと向かって飛んで行く。

 続いてキンバリーのクフィルも飛び立った。

「男の尊厳か ───」

 いくらか頬がこけて|皺《しわ》を深くした自分の顔も、そろそろ地獄の業火に焼かれる時かもしれない。

 パサパサになった髪を掻き上げると、足を引きずるようにして自室へ引き上げて行った。

 

「ほら、ガラク、演習モードだから思いっきり発射ボタンを押してごらんよ。

 キンバリーは、すばしこいからよく狙いをつけて」

 拳銃を手にしたときのような、頬のあたりがヒリつく感覚を覚えた。

 身体の感覚が消え、「自己」という存在が一つのエネルギーに変わっていく。

 照準器の中心に機影を捉えたとき、心に渦巻く違和感が消え、この世界の何もかもが中心に集まってきたようだった。

 一発だけ発射したレーザーは、確実にキンバリーのコックピットにヒットした。

 そして操縦桿を握ると、ジェナーが言った。

「そう、その調子よ。

 あなたには才能があるみたいね。

 でも、|溺《おぼ》れちゃだめよ。

 良い戦闘機乗りは、自分を持たないものなの。

 忘れないでね」

 年老いた武器商人が一言、空に向かって呟いた。

「Good Rack ───」

 

 

この物語はフィクションです

【プロット】猫が言葉を話した日

 ある日、飼い猫が言葉を話し始めた。猫は、飼い主の知らない秘密を知っていた。

 

「ご主人様 ───」

 妻と2人暮らしの俺は、全身真っ白の猫を飼っていた。

 子どもの代わりに、膝の上に載せて一緒にテレビを見たり、散歩をしたり、食事も一緒だった。

 そんな猫のサシャが、喋った、ような気がしたのだ。

「ねえ、ご主人様、聞こえてるんでしょう」

 サシャはこちらを見つめている。

 まさか ───

「ねえ、ご主人様。

 私、見ちゃったの」

 何か、意味深なことを言った。

「なんだい」

 恐る恐る聞き返す。

「奥さんの美奈は、浮気してるわ。

 猫は誠実だけど、人間の女はだめね」

 俺は、何を言われたのか理解するのに時間がかかった。

【プロット】幽霊屋敷の秘密

 幽霊屋敷に住み始めた家族が、奇妙な現象に悩まされる。彼らは、屋敷に隠された秘密を解き明かし、幽霊を成仏させることができるのか?

 

 「幽霊屋敷」と呼ばれる薄気味悪い家だったが、家族が住むには充分な広さだったし、何より家賃が安かった。

 少し気味悪いが俺たちはここに居を構えた。

 それからというもの、床鳴りに混ざって人の呻き声が聞こえ、鏡の向こうに光の玉が飛んでいたりした。

 ある日、トイレの中から女の子のすすり泣きが聞こえた。

 ドアを開けると誰もいない。

 そして閉めるとまた聞こえるのだ。

 さすがに気味が悪くなって念仏を唱えてみることにした。

 真言密教に、彷徨う魂を慰める術がある。

 見よう見まねで読んでみた。

「オン カカカ ミ サン マ エイ ソワカ‥‥‥」

 するとボロボロの服を着た少女が姿を現したのだ。

【プロット】植物人間が目覚めたとき

 10年間植物状態だった男が目覚めた。彼は、昏睡中に未来を予知する能力を手に入れていた。

 

 暗い世界に解き放たれた俺は、少しずつ世界が赤くなっていくのを感じていた。

 そうだ、俺は目を閉じていたのだ。

 少しずつ瞼を開いていく。

 あれは夢だったのだろうか。

 俺は、廃墟と化した東京を彷徨っていた。

 大地震津波に襲われ、ほとんどの人間は東京を去っていった。

 その前に、ここはどこなのだろうか。

「落ち着いて聞いてください」

 すぐ近くから声がした。

「あなたは10年間眠っていました。

 何か私にできることはありますか」

 声は出るのだろうか。

 ヒューと気管から音が出た。

 仕方がないので、大きく頷いて見せた。

 その男は、俺に様々なことを問いかけたが、一つも当たらなかった。

力を何度も込めていると、腕が少し動くようになった。

【プロット】鏡の中のもう一人の自分

 鏡に映るもう一人の自分が、現実世界に現れるようになった。主人公は、鏡の中の自分と協力し、世界を救う戦いに挑む。

 

 僕の家は山の中の静かな森に囲まれている。

 父は、ヨーロッパの家具を好んで揃えたので、家もそれに合う洋館だった。

 その中二階に洗面台が据え付けてあり、大きな合わせ鏡がある。

 僕が立つと勿論、自分の顔が写るのだが、真夜中の0時になると、鏡の中の自分が喋り始めるのだ。

 もう一人の僕は、バーチャル世界からやって来たという。

 そして、ある日外の世界に飛び出してきたのだ。

 知り合いには、双子の兄弟と言うことにした。

 昔からの友人には合わせないようにするしかない。

 妹は、突然のことに卒倒しそうになったが、時間をかけて説明した。

 もう一人の僕は、どうやら人の心を読み、数秒先の未来を予測する能力を持っているようだった。

 その力を使い、世界を混乱に陥れようとしているハッカー集団に立ち向かうために協力して欲しいというのだ。

【プロット】記憶を売る男

 記憶を売買できる世界で、記憶を失った男が自分の過去を取り戻そうとする。しかし、彼の記憶には、世界の命運を左右する秘密が隠されていた。

 

 俺は一体、何者なのか。

 ある部分の記憶がすっかり抜け落ち、子どものころの記憶と最近の記憶が繋がっているような違和感があった。

 空白の時期に、何か重大な秘密があるのではないか。

 そう思い始めたのは、時々自分を観察する視線を感じるようになってからだ。

 この前はカフェに入ったときに、新聞の裏からちらちらとこちらを見ている男がいた。

 マンションに帰ってきて、自動ドアを開けた瞬間、路上駐車している黒塗りの車から、窓越しに見られている気がした。

 手がかりがないわけではない。

 毎朝円周率の計算をする癖があって、スラスラと数千桁まで言えるのである。

 なぜこんな特技があるのか、理解できないが恐らく空白の時間に関係しているのだろう。

 そう、俺は数学者なのではないか。

 何かの暗号を解く鍵を握っているのではないか。

 だからつけ狙う奴らがいるのだ。

【プロット】呪いのSNSと都市伝説

 あるSNSで「いいね」を押すと死ぬという都市伝説が広まる。

 そして、その真相を確かめるため、危険な調査に乗り出す。

 

 闇の情報サイト、マッドウエブのアカウントを持つ者は、世界を支配できるとされている。

 情報セキュリティが飽和点に達しつつある現在においては、ハッキングなど現実的な技術ではなくなった。

 代わって人間の精神を直接支配する方法が取られるようになったのである。

 誰もが気軽に使っているSNSにおいて、闇の住人が書き込みをすることもある。

 そんなアカウントに「いいね」ボタンを押すと、死が訪れるとされていた。

 大手IT企業の社員である緒方は、ある筋からマッドウエブの動きが活発化しているという情報を掴んだ。

 SNSの「いいね」ボタンを押すと、個人情報が抜き取られる形跡は掴んだものの、その先のルートまではわからない。

「こりゃあ、」

 書き込み自体は分かりにくいようにしてあるが、どうとでも取れるように注意を払って作られたようにも取れる。

 いいねボタンをとりあえず押してみた。

 調査のためとは言え、背筋を汗がしたたり落ちた。

 何かがある。

 カーテンを少しだけ開き、目を凝らすと通りに人影があった。

【プロット】地球外生命体からの招待状

 世界中の科学者のもとに、地球外生命体からの招待状が届く。

 招待を受け入れた科学者たちは、想像を絶する異世界へと旅立つことにした。

 人類は、長きにわたって地球外生命体とコンタクトを取ろうとする。

 地球上の奇妙な痕跡をつぶさに研究してきた。

 そして、2050年を迎え、宇宙へ手軽に行ける時代が到来したとき、運命のメッセージが届く。

 電磁波に乗って、人類が傍受できる形で。

「おい、メールを見たか」

 データセンターの小型コンピュータのに届いたメッセージは、地球外生命体からの電波をキャッチした驚きと喜びに湧いていた。

 すぐに調査チームが組まれ、小型宇宙船に乗った俺は、宇宙の果てを目指して光速の1000万倍という、人類が実現可能な最高速度で射出された。

 目的地についたことをAIが知らせると、窓から空を眺める。

 綺羅星が霞のように広がるはずの宇宙が、そこにはなかった。

 何かの生物の体内のような、バイオな空間に異形の生物がうごめいている。

 俺はレーザー銃を片手に船外に出た。

【プロット】嵐の夜の来訪者

静かな山奥に、ポツンと佇む一軒の古びた山小屋。

都会の喧騒から逃れてやってきた若者が、この山小屋で数日間寝泊まりして楽しんでいた。

突然見舞われた嵐の夜、激しい雨音と共に、見知らぬ男が山小屋を訪れる。

男はびしょ濡れで、憔悴しきっていた。

拓也は男を招き入れ、暖を取り、食事を共にした。

男は、山で道に迷ってしまったと説明した。

しかし、彼の様子はどこか不自然で、疑念を抱く。

彼は、時折意味深な言葉を呟き、窓の外を不安げに見つめていた。

翌朝、嵐は過ぎ去り、山は静けさを取り戻していた。

2人は共に山を下りることにした。

しかし、山道を歩いている途中、彼は突然立ち止まり、見つめてきた。

「実は…」

自分は未来から来たタイムトラベラーだと告白した。

彼は、未来に起こる大災害を知らせるために、過去に戻ってきたのだという。

そして、その鍵を握るのが、この山にあるという。

半信半疑ながらも、彼と共に山を探索する。

すると、彼らは、古びた祠を発見する。

祠の中には、不思議な光を放つ石があった。

「これだ!」

石に触れると、彼は突然光に包まれた。

そして、次の瞬間、消えてしまったのだった。

一体何が起こったのかわからず立ち尽くしてしまう。

そして石を手に取り、山小屋へと戻った。

数日後、ニュースで驚くべき事実を知る。

未来で起こるはずだった大災害が、未然に防がれたのだ。

未来から来た男の言葉が真実だったことを悟り、彼が未来を変えたことに、安堵と寂しさが入り混じった複雑な感情を抱く。

彼の心には、あの山と、そして未来から来た男との出会いが深く刻まれていた。

時々あの山を思い出し、いつかまた訪れたいと思う。

もしかしたら、そこで再び、未来からの来訪者と出会えるかもしれないと。

【プロット】小さな恋の欠片を集めて

 都会の喧騒から離れた海辺の町、鎌倉。

 古民家を改装したカフェ「汐風」で働く、28歳の barista、藤崎あかりは、穏やかな日々を送っていた。

 彼女は、コーヒーを淹れて、お客さんの笑顔を見るのが何よりの喜びだった。

 しかし、あかりには少し変わった趣味があった。

 それは、「恋の欠片」を集めること。

 失恋した人が海に流した手紙、別れた恋人同士が最後に交換したプレゼント、叶わなかった恋の証としてのチケットの半券…

 彼女は、海岸を散歩しながら、そんな「恋の欠片」を拾い集めていた。

 ある日、あかりは、海岸で一冊の古いノートを見つける。

 それは、誰かが書き綴った日記のようだった。

 ページをめくると、そこには、切ない恋の物語が綴られていた。

 日記の最後には、「このノートを、海に浮かべてください。

 そして、私の想いを、誰かに届けてください」

 と書かれていた。

 あかりは、ノートの持ち主の願いを叶えるため、ノートを海に浮かべる。

 すると、不思議なことに、ノートは光に包まれ、空へと消えていった。

 数日後、カフェに一人の男性客が訪れる。

 彼は、どこか寂しげな表情を浮かべ、窓際の席に座った。

 あかりがコーヒーを運ぶと、男性は、彼女を見て驚いたような顔をした。

「もしかして、あなたは…」

 男性は、あかりに尋ねた。

 彼は、あの日記の持ち主、高木翔太だった。

 彼は、ノートが海に浮かべられた後、不思議な夢を見たという。

 夢の中で、彼は、あかりに似た女性にノートを渡し、想いを伝えていた。

 あかりと翔太は、ノートをきっかけに、心を通わせていく。

 二人は、お互いの過去や、今の気持ち、そして、未来への希望を語り合う。

 あかりは、翔太との出会いが、ただの偶然ではないように感じた。

 それはまるで、彼女が集めた「恋の欠片」が、二人を結びつけたかのようだった。

 やがて、あかりと翔太は、惹かれ合っていく。

 二人は、海辺でデートをしたり、カフェで一緒にコーヒーを飲んだり、穏やかな時間を過ごす。

 そして、ついに、翔太は、あかりに告白する。

 あかりは、翔太の言葉に涙を浮かべ、頷いた。

 二人は、優しく抱きしめ合った。それは、新しい恋の始まりだった。

 あかりは、これからも「恋の欠片」を集め続けるだろう。

 それは、彼女にとって、大切な思い出であり、そして、未来への希望でもあるからだ。

 そして、いつかまた、誰かの想いが詰まった「恋の欠片」が、誰かの心を癒し、新たな恋を芽生えさせるかもしれない。