読書感想文「うつを生きる 精神科医と患者の対話」内田 舞 (著), 浜田 宏一 (著)

 「勝ち負け」と「栄達」と「人間万事塞翁が馬」である。
 リフレ派のご本尊であるハマコー先生は、いつも柔和な表情で経済政策を語る。しかし、それまでの人生において苛烈な経験を伴いながら、壮絶な闘病人生があった。
 世間的な評価ではない。そんなものに安心などできず苦しむのだ。もっともっとと追い求めてしまうのだ。過去にどれほど掴んだ栄冠はあったとしても、次に進んだステージでは、その場なりの闘いがある。負けるわけにはいかないから、頑張るし、評価が気になる。
 ハマコー先生が繰り返すのは「褒め」の大切さだ。承認欲求である。認められたい。評価されたい。栄誉を勝ち取りたい。頑張っているのに見てもらえないのはツラい。他者からどう見られているかではあるが、その目線に自分が満足できるかなのだ。
 重過ぎる経験を経て、ハマコー先生はひょんなことから活躍の舞台を得る。それまでの研究の途ではなく、政策への関与である。それは後にアベノミクスと呼ばれるが、禁欲的・倫理的であろうとすることを金科玉条とする旧来のドメスティックな経済政策を司る泰斗たちにとって、当たり前の世界標準と最新の理論を整然と説明するハマコー先生の論説は、どこか遠くから聞こえる見知らぬ御宣託に聞こえただろうが、日本経済を救う決め技としてハマった。
 リフレ派にとっては必読だし、まだまだこれからの現状で手綱をゆるめちゃいけない。それはハマコー先生が人生が語っている。それと、人生に行き詰まったら、コツコツと努力は続けながらも、単純な欲は手放すことの勧めだったりもする。