2024-01-01から1年間の記事一覧

読書感想文「吾妻鏡-鎌倉幕府「正史」の虚実」藪本 勝治 (著)

歴史を叙述するとは、何なのだろうか。 都合がいいのだ。頼朝にも、実朝にも、泰時にも。なぜか。後から作ったからだ。事実のパーツをつまみ食いして、下敷きとなる物語の体裁を借り、当てはめていくのだから、「だってマズイじゃーん。それじゃあ、正義の味…

読書感想文「小隊」砂川 文次 (著)

交戦すらも、凡庸で間抜けな小狡さのある日常の延長なのだ。 組織には目的がある。だが、それと同時に理念と使命がある。組織は合目的的に業務を遂行しようとする。なので、トップの指令や指示を最短距離で達成しようする。当然、組織内に軋轢やトラブルは発…

読書感想文「王墓の謎」河野 一隆 (著)

世界宗教誕生前の「神」と人々との関係である。 交易や生産活動によって、宝飾品などの財がやってくる。交換や贈与によるものなので、それが個人だけでなく、集団に貯まることはインフレを招く。価値の低下である。適切な社会活動が行われなくなるので、社会…

読書感想文「下町サイキック」吉本 ばなな (著)

そっかー、下町は無くなるのか。 やたらと説明してくるように、吉本ばななが主人公に仮託して語らしめる、人と人との距離感や関係性が独特な「下町」があった時代が終わるのだ。それを記念写真のように描いておこうとしたのだ。「下町」では距離感が近すぎる…

読書感想文「学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話」ちいさな美術館の学芸員 (著)

ハウツー学芸員である。 アートとは見識である。ものの見方である。現実に存在するアート(プリントされたり、画面上に映し出されたりしている状態かもしれないが)は、なぜ価値あるものとして我々の目の前にあるのか?その価値足らしめているのは何なのか?…

読書感想文「モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち」楊 海英 (著)

日本人の知らないモンゴルの話しである。 わからないはずだ。魚を取ったり米を育てたりしないし、鬱蒼とした森を歩くことのない人たちの世界なのだ。馬であり、羊である。我らは、そもそも鎌倉武士以降の一所懸命の人たちだ。彼らは天幕で過ごした後、移動し…

読書感想文「うつを生きる 精神科医と患者の対話」内田 舞 (著), 浜田 宏一 (著)

「勝ち負け」と「栄達」と「人間万事塞翁が馬」である。 リフレ派のご本尊であるハマコー先生は、いつも柔和な表情で経済政策を語る。しかし、それまでの人生において苛烈な経験を伴いながら、壮絶な闘病人生があった。 世間的な評価ではない。そんなものに…

読書感想文「蝶として死す: 平家物語推理抄」羽生 飛鳥 (著)

才覚と天運である。 なまじ能力があるばかりに疎んじられ、警戒される。まあ、少しくらい抜けている方が可愛げあるのだから、才気張って輝き放ったところで必ず重用されることにはならない。組織で働くとは当意即妙で受け答えができたり、気働きができたとこ…

読書感想文「宙わたる教室」伊与原 新 (著)

油断するな。落涙するぞ。 信じられる科学の話しだ。科学は動かない。厳然としてそこにある。原理原則である。ブレない。身じろぎ一つせず屹立している。だからこそ信じられる。科学にハマるとはそういうことだ。真理を探究することは人を純粋にする。 モチ…

読書感想文「鳥と港」佐原 ひかり (著)

Z世代の本音と不安と気分の話しだ。 世間的な正しさと自分自身の価値観が乖離するとき、経験量の少なさがどうしても仇になる。「折り合い」の付け方、自分の機嫌の取り方、感情の発露の仕方、吐き出してしまっても大丈夫な友人・知人の存在などなど、過ごし…

読書感想文「トヨタ 中国の怪物 豊田章男を社長にした男」児玉 博 (著)

大陸の権力とは難しい。それは、権威主義国家の厄介さだ。 人口があり、その市場規模が経済成長を生む。スケールがリターンとなる。それを一党独裁体制が認めているうちはそうなる。だが、社会は一様のままでは無い。かならず変容する。そうなると、権力の志…

読書感想文「祖母姫、ロンドンへ行く!」椹野 道流 (著)

先達の言葉である。 祖母自身の興味や関心もあったことだろう。だが、人生をどう生きるか、日々をどう注力して過ごすかを意識し、それにエネルギーを使ってきたこの祖母にとって、大学医学部を出た孫娘にどうしても言っておかねばならないことを伝えるために…

読書感想文「ハンチバック」市川 沙央 (著)

文学の想像力の力を見せつけた小説だ。 人は文字の力だけでトベるのだ。そして、価値、立場の上下・強弱だって逆転させることができるし、実際、強さ、弱さの根源だったり、内心なんてものはわからないものだ。 今でも、異形のナリ、カタチは忌避されるし、…

読書感想文「行動主義 レム・コールハース ドキュメント」瀧口 範子 (著)

混乱と矛盾と理不尽がそこにあるとき、カリスマとどう向き合えばいいのか。 ビジョナリーであり、リソースを投入することを決断し、新規の案件を獲得する。つまり、経営者のそれだ。だが、レムは、同時に批評家であり、編集者である。ウチ側の人っぽくない。…

読書感想文「限界集落の経営学: 活性化でも撤退でもない第三の道、粗放農業と地域ビジネス」斉藤 俊幸 (著)

何が「限界」なのだろう?本当にそう思う。 為政者や高級官僚にとって、田舎の集落を市町村役場の連中の尻を叩きながら救うのはクタクタになるので、もう限界だ、と言っているに過ぎない。田舎の役場には、ビジネスマインドがある奴がいるわけじゃ無いし、ク…

読書感想文「にほんの建築家伊東豊雄・観察記」瀧口 範子 (著)

得体の知れなさ、正体の捉えようのなさ、と言いたくなる「変化し続ける人・伊東豊雄」である。 ホンモノの思索の人だ。根源まで考える。だから、スタイルや権威ではなく、モノゴトの本質に遡って考え続けることを流儀とし、その土地や施主との話し合いを重視…

読書感想文「謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年」榎村 寛之 (著)

平安前期の社会とは何か。創業者一族が社内の意思決定に歴然と影響力を及すぼすJTC(Japanese Traditional Company・伝統的な日本企業)である。 社内のパワーバランス、社内政治が重要視され、時にはトップの意向が絶対的だったり、集団指導体制だったりし…

読書感想文「ビジネス・ゲーム 誰も教えてくれなかった女性の働き方」ベティ・L. ハラガン (著), & 3 その他

ビジネスとはゲームであり、会社はチームである。案外、わかっていそうで、実はわかっている人は限られている。例えば、なぜ、体育会系出身者は難なく就職が決まるのかと言えば、体力があったり、上下関係の理不尽さに耐えるからじゃない。勝敗の受け止め方…

読書感想文「季節のない街」山本 周五郎 (著)

人肌の温度と匂いがある暮らしの話しだ。 登場するのは、貧しさや不運、浅はかで悲しみと可笑しみのある人たちだ。涙はいつだって流れてしまい、その跡が目尻に残る者ばかりかと言えば、そんなことはなく、バカバカしくも強情とデタラメを押し通す者、ホント…

読書感想文「サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」正垣 泰彦 (著)

優秀すぎるマーチャンダイザーである。 チェーンストアを展開する強い気概を持つ経営者だ。経営を、夢やロマンと数字で語れる人なので強い。経営についての考えを突き詰める人は当然、数字でものを考えるが、結果としてユニクロやニトリのようにSPAの業態に…

読書感想文「劇的再建:「非合理」な決断が会社を救う」山野 千枝 (著)

自分をどう生きるか?という問いかけの一冊である。 なぜ、後継ぎとなることを承諾してしまうのか。逃げきれない中、止むに止まれず不請ながら、不利な条件にも関わらず、もはや運命として引き受けてしまった人たちなのだ。で、そこから地獄の日々が待ってい…

読書感想文「大正天皇」原 武史 (著)

明治の元老にとって、自分たちが担いだ君主が代替わりするということは、決して居心地のいいものではなかったということなのだろう。なにせ「明治は俺たちが作った」くらいの自負はある。変わってもらっちゃ困るのだ。世の中が変わってしまい、握った力を易…

読書感想文「隆明だもの」ハルノ宵子 (著)

ハルノ宵子とは達観と諦念の人だ。ジンブツいや傑物なのだ。 そんじょそこらの「吉本主義者」は軽く踏み潰される。参ったなー、この吉本の長女は、吉本の考えをほぼ全て理解(本人は否定するだろうがそんなもの信じちゃいけない)し、何なら体現している。や…

読書感想文「鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折」春日 太一 (著)

自由を求めた脚本家の人生だ。どこにも媚びず、へつらわず、自立した生き方だ。 それは、プロとしてどう生きるか?という問いでもある。脚本家・橋本忍は軽々と、シナリオを書く際の決め手の『三カ条』があると答える。「いくら稼げるか」「面白いかどうか」…

読書感想文「頭のいい人が話す前に考えていること」安達 裕哉 (著)

「謙虚に聞こう」と考えているのだ。 この謙虚になる相手というのは、クライアントだったり、上司だったり、先輩や同僚、部下ということもあるだろうし、言葉や歴史、シチュエーションそのものだったりもする。謙虚な態度や振る舞いのもとで発する言葉が効き…

読書感想文「まいまいつぶろ」村木 嵐 (著)

ダイバーシティ。インクルージョン。いや、エンパワーメントか。 障害を持った者への罵りを、時代小説という舞台を借りて日の当たる場所へ曝け出してみせた。実は、そうした者の誰もが好き好んで腐そうとしているわけでは無い。自分の身の振り方を案じて「使…

読書感想文「なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える」川原 繁人 (著)

言語学最前線である。 言葉は変化するとはよく言われるし、実際、変化が起こるのは、発する言葉の伝達速度アップと効率化の欲求の表れであったといえそうだ。社会集団が安定化し、閉じた関係性の中で意思や意味を伝えるようになると、省略と省エネが起きる。…

読書感想文「化学の授業をはじめます。」ボニー・ガルマス (著), 鈴木 美朋 (翻訳)

とびきりハードで不寛容で未成熟な若くリベラルなアメリカでのおとぎ話だ。 女はいつも戦っている。負け戦であってもだ。だから、ページをめくるのは重くつらい。従順で健気で素直な「女の子」であることを当然に「定形」として求め・求められるという社会規…

読書感想文「木挽町のあだ討ち」永井 紗耶子 (著)

江戸の名手である。 とくに町人、悪所を書かせたとき、この人の右に出る者は何人いるだろうか。まるで、暖簾の向こうで見てきたようまちの風情を描く。たいした筆力だ。ただただ恐れ入る。 大団円を迎えるまで、地味なシーンに時間を掛ける。それには理由が…

読書感想文「成瀬は信じた道をいく」宮島 未奈 (著)

人格の形成とはいつ成されるのだろうか。 持って生まれた性格や才能、能力が揃い「その人」らしさが形づくられ、他からもそう認識されるのはいつなんだろうか。何を言いたいのかと言えば、続刊であるこの本にもおいても、成瀬あかりはあいも変わらず天然・自…